第2話 クローネンブルグ・セーズ(フランス産だけどユーロな味)

 ホテルのカクテルラウンジで、黄金のビール色から濃い茶色に変わる夕景を見ていたら、約束の時間より5分ほど遅れてクローネンブルグ・セーズさんがやって来た。仕事のできそうな紺色の地味スーツにタイトスカート、赤いリボンタイのスタイルで、就活中の女子大生ぐらいに見える。プラチナブロンドの髪をウェーブセミロングにしている。自分を探しているときは赤のハーフリム眼鏡をかけていたけど、席につくと外してテーブルに置いた。

「ああ、なんとか間に合った。ところでホテルの客室の窓って、たいてい東側にあるって知ってるよね」

 客室で夕陽を見る人よりも、朝日を見る人が多いからかな。

「うんうん。すごく昔のバブル景気時代の男女の会話みたい。別に誘ってるわけじゃないよ。でも、東京に泊まるんだったら西のほう、新宿とか渋谷がいいよね。できたら夕景と夜景と朝日が上がってくところを見たい」

 ところで、あなたはフランスが原産ってことだけど、あんまりそれっぽくないね。普通にドイツビールみたいだ。

「むー。全然違うよ。フランス語読みでクロナンブール。まあドイツの国境に近いアルザスに工場があったわけなんだけどさ。せめてユーロっぽいとか…私の家系は名前の通り、17世紀から続く由緒ある名門ね。フランス人の40%は私のところのビール飲んでるはずです」

 瓶の表に「16(セーズ)」って書いてあるのがすごいね。で、裏に「64」。

 そう言えば妹にブラン(白)ってのもいたんだっけ。

「妹は口当たりはいいんだけど、短気でアルコール度が少し高めだから、注ぐときと飲むときに気をつけないといけないの。瓶から直接飲むと泡しか飲めないんで。で、どうかな、私の味は」

 …適度な渋みとほどほどの軽さ、少しだけ果実の味がしないでもないけど、やっぱラガーっぽいこれは…一番搾り?

「一番搾りは日本料理に合うんだけど、私の場合はフランスとかイタリア料理に合うことになってるんです」

 しかしまあ、これのおつまみはどちらかというとソーセージかなあ。

 クローネンブルグ・セーズさんは食品の貿易関係の会社で働いていて、フランスのチーズやワインとかにもくわしいんだけど、ドイツ料理にはあまりくわしくない。

 ドイツビールと妹とフランスワインに関する複雑な感情についていろいろ聞かされた。まだ酔ってないって言ってんだろ、って言いはじめるようになるまで。


味     ★★★☆☆

コク    ★★★☆☆

個性    ★★☆☆☆

おすすめ度 ★★★☆☆(これはその日の天気・体調に左右されそう)

お値段   407円

素朴な感想 どこがフランスなのかさっぱりわからない、ワールドワイドなラガービールの味。日本のおつまみとしては柿の種あたりが合うんじゃないかな。

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