第43話
「ん、ああ、分かったけど……」
いまいち事態を飲み込めずにいる秀介をよそに、僕はじっとリナの挙動に目を光らせた。メリーゴーランドが一旦止まり、リナの番がやってくる。こんな乗り物に乗るには少し身体年齢が高すぎる気がしたが、まあ、リナが乗りたいというならしょうがないだろう。
それより、リナや機械に異常がないか確かめるのが先決だ。
と、思った矢先のことだった。
「ん?」
既に異常は起こっていた。木馬の回転速度が、明らかに速いのだ。
今朝電車に乗った時から、リナはスピード感のあるものを求めているのは見当がついている。だが、そうして遊ぶのが許されるのは、そもそもスピード感を重視したアトラクションで遊ぶ場合だけだ。周囲で我が子を見守る保護者たちも、だんだんざわめき始める。
「おい、なんだか速くないか?」
「ちゃんと掴まってなさい! 危ないわよ!」
「係員さん、これって何か起こってるんですか?」
「え? ああ、いや、私どもが点検した時はなにも異常は……」
「止めろっ、リナ!!」
気づけば、僕はメリーゴーランドのそばまで駆け寄り、叫んでいた。
しかし、聞こえていないのか拗ねているのか分からないが、リナは一向に木馬の速度を落とそうとはしない。
「おいリナ、聞こえるか!? 今すぐ落ち着いて、木馬を止めるんだ!」
しかし、リナの力は止まることを知らず、回転速度はぐんぐん上がっていく。
その時、
「うわあっ!」
「きゃあっ!」
男の子が一人、遠心力で放り出された。地面に叩きつけられた男の子は、すぐに母親に抱きしめられた。頭を打っていなければいいが。
「おい、どうなってるんだ!」
「早く、早くうちの子を下ろしてちょうだい!」
「緊急停止ボタンとかあるんだろう!?」
複数の保護者に詰め寄られ、あたふたするばかりの係員たち。こうなったら、僕がリナを止めるしかない。
僕はダッシュで先ほどのアイスクリームの露店に行き、
「秀介、代金頼む!」
言うが早いか、アイスクリームを一つ頂戴した。慌ててメリーゴーランドのそばに駆け戻る。するとちょうど、リナがこちら向きに回ってくるところだった。相変わらず満面の笑みを浮かべている。やはり、説教の効果はなかったらしい。
僕は思いっきり息を吸い、叫んだ。
「当たれ!!」
それから放り投げた。手にしたソフトクリームを。それは野次馬や保護者たちの頭上を通過、そして、リナの顔面にクリーンヒットした。
「きゃっ!」
リナの短い悲鳴が聞こえる。すると途端に木馬の回転速度が遅くなり、元の緩やかな速さに戻った。どうやらリナの力を妨害することに成功したらしい。その隙をついて、僕は人混みに分け入った。
「すみません、ちょっと! 通してください!」
そのまま強引にリナのそばへ。
「降りるんだ、リナ!」
半ば僕に引きずりおろされるような形で、リナは木馬から降りた。直後、
パチン、
と威勢のいい音がした。気づけば、僕の右の掌が熱を帯び、リナの左頬が赤くなっている。
そうか。僕はリナを引っ叩いたのだ。
が、済んだことはどうでもいい。
「行くぞ」
僕は強引にリナの手を引き、人混みから脱出した。
「お、おい兄貴、何がどうして――」
「駄目じゃないか、リナ!!」
秀介を無視して、僕はリナを睨みつけた。
「力は使わないって約束だっただろう!? 今度は怪我人も出たんだ! ちゃんと周りのことを考えろ!!」
僕は一気呵成に怒鳴り散らした。
すると、リナは俯いてなにやら口をもごもごさせ始めた。
「何だ? 聞こえないぞ!」
「……」
「言いたいことはちゃんとハッキリと――」
「私、知らなかったんだもん!!」
リナはがばっと首を上げ、逆に僕を睨みつけてきた。
「私、自分のチカラなんて知らない! ただ自由になりたかっただけなの!!」
リナの瞳がだんだん潤んでくる。
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