第41話
すると早速、リナが天真爛漫ぶりを発揮した。
「ねーねーしゅうすけお兄ちゃん、リナ、アイスクリーム食べたい!」
と言ってリナは、秀介の腕に自分の腕を絡める。
「おう、分かった分かった! そう急ぐなよ」
「じゃあ僕も貰おうかな」
「ああ、もちろん……って兄貴じゃねえか!」
そう言って秀介は身を引いた。
「こういう時は、年長者が奢るもんだろう!?」
そう言う秀介の肩に手を回し、僕は小さい声で吹き込んでやった。
「その方がリナの前で見栄えがいいだろう?」
「ま、まあ兄貴がそう言ってくれるなら……」
と、秀介はあっさり了承した。二百円浮いたな。ちなみにアイスは、秀介がイチゴ、リナがチョコレート、僕がバニラだった。
秀介を丸め込めたことで少し浮かれ気味だった僕は、しかし、次のリナの言動のために、アイスクリームよりも背筋が冷たくなった。
「リナ、あれに乗りたい!」
「おお、ジェットコースターだな! いいだろう! な、兄貴! ……兄貴?」
「悪いけど、二人だけで乗ってきてくれるか」
「何言ってんだよ! ノリ悪いなあ、付き合えよ兄貴、誰が入場料払ったと思ってるんだ?」
ぐっ。そう言われると反論の余地がない。
昔から僕がスピード系の乗り物が苦手だったのは、お前だって知っているはずだろう?
そう言ってやりたかったが、開きかけた唇は秀介の意地の悪い視線に封鎖されてしまった。
数分後。
「すっごく速かったね、しゅうすけお兄ちゃん!」
「ああ、すごく楽しかったな! なっ、兄貴!」
「うぶっ!」
僕は嘔吐寸前だった。そんなことを知ってか知らずか――いや、おそらく知っていてわざとだろう――、秀介は勢いよく僕の背中を叩く。全く、調子に乗りやがって……。
「さ、流石に次は穏やかな乗り物、だよな?」
「なあ、どうする、リナ?」
「うーん……」
まずい。リナの視界には、急上昇&急降下のアトラクションが入っている。これ以上は付き合いきれないぞ。
するとリナは不意に視線をわきに逸らし、明後日の方向を指差した。
「あーっ、あれがいい!」
と言って回転マグカップに手を伸べたのだ。
「いやいやリナ、あれじゃあそんなにスリルは味わ――」
「いい提案だなリナ!!」
僕は身体を秀介とリナの間に滑り込ませた。
「あれでいいだろ? な、秀介?」
懇願と恨みと復讐心のこもった目で秀介と視線を合わせる。すると、秀介は肩を竦めながら、渋々頷いた。
「ま、リナがそう言うならそれでいいだろ」
むっつりと答える秀介。内心ざまあみろ、といったところだ。
次の番のマグカップに、僕らは乗り込んだ。
「うわあ、世界が回ってる!」
ほう、なかなか詩的なことを言うじゃないか、リナ。精神年齢十歳児にしては。
僕と秀介は適当に腰を下ろし、アイスの次に買い求めた缶ジュースを開けようとしていた。
その時だった。
「うおっ!?」
「何だ!?」
僕と秀介は、マグカップの内壁に背中を押しつけられた。僕の缶ジュースが床に落ち、瞬の胸に、開けたばかりのコーラが飛び散る。マグカップが、高速回転し始めたのだ。
機械の故障か? 停止ボタンはないのか? 係員に声をかけられないか?
僕らが危機感に駆られ、数秒間思考を回転させた、その時だった。
「きゃはははっ! 面白―い!」
歓声がそばから聞こえてきた。
リナだ。リナが恐らくは超能力で、このマグカップを通常より速く回転させようとしているのだ。
「全く何なんだよ!?」
秀介に気づかれる前に、リナの暴走を止めなければ。僕はふらつく足取りで、なんとかリナの前までやって来た。
「止めるんだリナ! 危ないぞ!」
そう言って肩を揺さぶる。するとリナは、
「あ、あぶ、ない……?」
「そうだ、誰かが怪我するかもしれないじゃないか!」
「そうなの?」
「とにかく止めるんだ!!」
リナはふっと真顔になり、僕を見つめた。するとそのままマグカップの回転速度はゆっくりとなり、やがて他のマグカップと同じ速さにまで戻った。
「秀介、大丈夫か?」
と言い切る直前のこと。
「リナ、リナ! 怪我はないか!?」
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