White Cube

作者 夏野けい

25

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★★★ Excellent!!!

押し付けがましい優しさで人間の負の側面を描くことが規制された未来。

それによって、創作物はどんどん味気なくなっていった。

不快がなければ快もない。

だから、彼女達は計画する。

真の芸術や物語を残す計画を。

儚く、少しだけ寂しい物語です。

★★★ Excellent!!!

不快が無ければ快も無い。
創作が機械の仕事となり、創作物から不快さが脱臭された世界において、何かを刻んで遺すのはとても難しい。

もしも本気で何かを遺そうとすれば、きっと不快なものになってしまうから。

けれど、それが「何かを生み出す」ということ。
人工知能の莫大な計算資源によらず、人の意志によって生み出されたものは自己中心的で切実なのだ。

本作は『ハーモニー』のように誰もが天寿を全うし、思いやられる世界の話。
限られた寿命の中で何かを遺そうとする少女と、彼女に見出された主人公の物語だ。
白く透明感のある文章が淡々と、「表現」の持つ力とその無力さを語る。
芸術が人工知能の領分になって久しい世界、あらゆる人の感性に合わせ、街や作品がデザインされてしまう。
少女が夢見る画家という職業の居場所は無い。
この世界では何も遺せないのかもしれない。
けれど死期近づく最中において、彼女はようやく反撃の手段を見出す。
そして、自らの命を用いたその手段を主人公に託す。

何かを託し遺すこと、その媒介となる言葉の力を実感しました。

ふつふつと湧き上がる憤りに満たされた『ハーモニー』とは異なり、切なさと希望を感じさせるラストも好きです。