Ⅴ-11 I wanna be unexpected me.
この頃には次のリーダーは誰かという話になるのも例年通り。
そんな恒例行事である、新旧幹部の対面式。
「43期で相談して決めました、
「
例年、というほど長く活動している訳ではないが。
「
陽向に突っ込まれた結樹は、きまりが悪そうに顔を背ける。
「そうだな……リーダーのイメージだと
「実は同感」
希和も小声で付け足す。本人たちの意向に別の予想をぶつけるのもあまり良くない、そう思ったのだが。
「私もそう思ってましたよ、春になるくらいまでは」
他でもない沙由から、その解釈を肯定されてしまった。
「私、これまでリーダーとかやったことなかったんですよ。何かあったら香永みたいな子についていったし、陽向みたいに自分でアレコレ決められる訳でもなかったし。
けど、そんな自分のままでいたくないんです。誰かに引っ張ってもらえて、誰かに決めてもらえる立場は楽ですけど、そこに甘えたくないんです」
何度も自問してきたかのように、はきはきと語る沙由の姿に。
「らしくない」ことに取り組んできた何人もの顔が重なる気がした。向いていないと察しつつも努力を続けた
なら、受け容れる以上のエールを希和からも贈りたかった。
「きっと、実りある判断になると思うよ。自分のらしさなんて、誰かを通して考えてもいいし、自分で決めたっていいんだ。僕はそうしてきたつもりだよ」
「はい、皆さんの変化に後押しされたのも確かです。例えば希和先輩だって、アイデアも自分自身もステージの中心になっていいんだって意識が芽生えてきたこと、私なりに感じ取っていましたし、眩しく思っていたんですよ。だから私も、なりたい自分に飛び込みます……きっと香永も、そんな私を応援してくれるはずですし」
香永みたいになりたい、そう言わないことが彼女たちなりのリスペクトなのだろう。
「私も応援するよ。私の自慢の後輩だ、きっといい運営になる」
結樹のエールを受けて顔を輝かせる沙由の頭を、誇らしげに陽向が撫でる。
「ただ沙由がリーダー慣れしていないのも確かなので、私も積極的にサポートします」
「陽向さんに関しては心配してないよ、だってこの手の調整も優秀でしょ?」
「ええ。労力に見合う環境なら、ですけど……これまでの私も、これからの私も、この部活が大好きですから。だから心配いりません」
相変わらず強気な宣言の裏。詩葉がいなくなった部だって大好きだ、そんな愛着が見えた。
それから部の運営についての引き継ぎの一部を済ませたのだが。沙由は真剣に聞き入っており、陽向も要所で的確な質問をするなど、早くも良い連携を発揮していた。
「例年の決まり文句でもあるんだけど。要だけきっちり出来ていれば、自分たちに合うように変えてもらって構わないから。いつだって、そのときの部員が主役だよ」
結樹の補足に、沙由がふっと笑みをこぼす。
「お二人らしい運営だったと思いますよ。だって結樹さん、希和先輩を動かすのになんの遠慮もしてなかったじゃないですか」
「……どうなんです結樹先生?」
希和からも水を向けると、結樹は呆れたように溜め息をつく。
「だってお前、他が動いているときに自分がフリーだと居たたまれない奴だろ」
「そんなこと言ったっけ?」
「中学のときに言動で察してたよ。役に立ててないか不安で哀れな目してたじゃん」
「自覚はあったけどその言い様はなくない?」
突っ込みつつも。自覚していた思考を初めて指摘されるくらい、自分を見てくれていたことは嬉しくもあった。
上級生のやり取りに目を細めつつ、沙由は続ける。
「私は結樹さんとは違いますし、陽向と希和先輩は正反対ですけど。お互いを活かし合えてるって意味で、私は先輩たちみたいになりたいんですよ。これだけ通じ合える仲間、他で出会えるかも分かりませんし」
*
下級生を見送り、残りの打ち合わせを済ませたところで、結樹がふと口を開いた。
「お前が入部するって決めたとき、私になんて言ったか覚えてる?」
「また随分と昔の……コンクールの出番の後とかだっけ? 劇的なこと言った覚えないけど」
「ああ、そう……自分の力が及ばないときは私が叱ってくれ、だったよ」
「だっけ……まあ、僕が言いそうなのは確かだけどさ。それが?」
「最近は減ってきたけどさ。振り返ると随分、お前に色んなこと言ってきたなって」
「後悔……って顔でもないね?」
「私はしてない。
「結樹さんが嫌だった訳じゃないよ。自分に嫌気が差してただけで」
先生から、が中心ではあったが。学年やパートを問わず指摘が飛び交う部ではあった。この代で発信者として一番目立っていたのは結樹だったし、受け手として一番目立っていたのは希和だろう。
「
弾劾するような言葉とは裏腹に、声音は随分と温かい。
「けどさ。HumaNoiseもミュージカルもあんなに楽しかったし。昔の飯田より、ずっと上手くなってきたじゃん。
音楽の才能がどうってお前はしょっちゅう言ってたし、その言葉に逃げるなって私は何度も伝えてきたけどさ。誰かを受け容れることも、自分を投げ出さないことも、みんなが輝けるアイデアを出すことも。ちゃんとお前の才能だったと私は思うから。何より、お前が副やってくれたのは幸運だったんだよ」
「それはどうも……嬉しいけど急にどうしたの、結樹さん消えるの?」
「消すな。たまに飯田が寂しそうな顔してるの、ちょっと引っかかってたからさ。最後のステージのときに、お前の自信が足りていなかったら嫌なんだよ。今年は金は厳しい気もしてるけど、せめて自分たちは納得したい。納得できない仲間がいたら嫌だ」
頑張ってきた、個性の発露にも恵まれた、人とも通じ合えた――それでも存在する理想とのギャップは、あるいは詩葉と共に選んだ道は。自分で思っていたほど、克服しきれていなかったのかもしれない。
だとしても。
「つかみ取ったものにも、諦めたものにも、僕は僕で納得しているから。本番であんまりにもダメなことしたら別だけど……少なくとも結樹さんたちが心配するようなことじゃないよ。けど嬉しかった、ずっと尊敬してる君にそう評価してもらえるのは」
「それは何より、あとこの流れで私を上げに来るのは勘弁してくれ。生憎と私は褒められ慣れているんだ、詩葉のムードが移りすぎだろみんな」
食傷気味だと訴える表情に吹き出しつつも、荷物をまとめる。話は逸れたが、そろそろ帰る頃合いだ。帰りも一緒の電車ではあるが、詩葉のいないときは距離を空けて座るようになっているのが暗黙の了解になっていた。
立ち上がり、窓の施錠を確認する希和の背に、やや軽い調子の結樹の声。
「ついでに追加の不満点、いい?」
「このタイミングで……なんです?」
「いつのまにか飯田の方が身長高いの、謎にムカつく」
「出会ってからトップクラスに生産性のない指摘だな!?」
「大学入ったらヒールで盛って見下ろしてやる」
「好きにどうぞ……けど詩葉さんが余計に喜ぶよ、高身長は」
「あっ……陽向がもっと嫉妬深くなれば詩葉も大人しくなるんじゃ」
「一番面倒くさいしょそれ!」
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