#9 勇気のリレー / 武澤 結樹
「今日はこの辺で良いだろう。そろそろ帰ろう」
「ウッス、今日もお――」
「おーいタキ、いるか?」
声の主は
「わあ、ライズさんじゃないですか! この前に手伝ってもらって以来ですね」
嬉しそうに駆け寄っていく
「なんだ、この前のアクアズもいるじゃねえか?」
睨みつけられたギラハが、びくっと肩を縮こまらせる――昔の詩葉は、よくこんな怖がり方をしていた。最近はそんな姿を見なくなったのは、接するのが減ったからか、怖がることがなくなったからか。
感傷を振り払いつつ、タキもライズを迎える。種族は違えど友人、そんな間柄を意識している。
「久しぶりじゃないか、急にどうした?」
「この子の話は前に聞いたんだろ? グランズの力も必要だから、改めてお願いに来たんだ」
「……どういうことだ。お前の弟、アクアズの毒で病気なんだろう?」
希和から「結樹さんに合うと思った」と言われた、男性的なややキツめの口調。それはデフォルトというより、詩葉や希和くらいにしか向けていなかった口調のはずだったが、他の人にとってもイメージとして定着してしまっていたらしい。誤算ではあるが、前向きに取られているならオーライだろう。
「ああ。だから簡単に許そうとかは思っていないさ。それでも、この子に言われて気づいたんだよ。アクアズの力は役に立つ。ここで恩を売っておけば、きっとあいつらだって協力する気になるさ」
決心したらしいライズの回答に、
「けど……今までずっと、争ってばかりだったんだよ。そこから仲良くなんて、怖いよ」
ギラハの手を引いて、
「彼女はね。泳げないのに、溺れかけていた私を助けてくれたんだよ。誰かを助けるための勇気が彼女にあったから、今の私があるんだよ……だから今度は、私たちが勇気を出す番」
続いて、頭を下げるギラハ。
「お願いです。私たちのこと、お互いのこと、どうか信じてくれませんか」
ギラハから目を背け、タキは空を仰いで息を吐きだす。視線を逸らしたまま回答を始める。
「……作物を育てるには水が必要だから、近くの川や泉から引いてくるんだけどな。私たちは全く泳げないから、いつもヒヤヒヤしているんだ。泳げる人と一緒なら安心だろうとは、前から思ってた」
承諾に向かい始めた流れを察してか、ズーイが声を上げる。
「ちょっと、タキさん?」
「お前だって水に落ちて泣いていただろう」
「今それ言います?」
ズーイの間抜けな返答に、シーユが吹き出す。
「とにかくだ。本当にアクアズが協力してくれるなら、私たちにできる範囲で協力しよう」
タキの回答に、ギラハの表情に笑顔が咲く――変わったことも多いけど、詩葉のその眩しさはずっと変わらない。
「ほんとですか?」
「その前に。私たちが何をすればいいのか、ちゃんと説明してもらうぞ」
タキの催促に、キーナが進み出る。
「では、ここからは私が。考えてきた作戦をお伝えします!」
暗転し、BGMの中で次への準備が始まる。クライマックス、全員での救出作戦だ。
道具を準備して隊形を整え、照明の変化を待つ数秒。ふと、希和に視線が行く。彼がこちらを向く寸前に逸らす――今さら気づいたことが、照れくさいのだ。自分たちだけのこの物語が、こんなに楽しいなんて。
照明が変わる。いつか希和と交わした引用を思い出す――各員一層、奮励努力せよ。
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