#4 天罰と孤立 / 福坂 翔

 アクアズは先ほどと同様に、「軍隊行進曲」に乗せての狩りを繰り返す。

「はあっ!」

 ザッカは気合いと共に発声、それを見たゼッキーが「やるじゃんザッカ!」と歓声を上げる。

「みんな、今日も快調じゃない」

 ハヅマが自慢げに言う中、伴奏はフェードアウトしホリゾントが赤く照らされる。


 突如として流れ出すのは、ヴェルディのレクイエム「怒りの日」の伴奏。そしてステージの裏では、ウィングスとグランズの面々が原曲の合唱パートをなぞっている。一変した空気の中、洪水の轟音が響く。


「ちょっと、何これ!」

「落ち着いて、早く岸へ!」

 喚くゼッキーと、先導するハヅマ。福坂は上手へと向かおうとし、途中で膝をついて手を伸ばし発声。

「ダメだ、流される!」


 歌と音源のボリュームが下がる中、黒衣の三人がステージへ登場し、うずくまるアクアズへ声を降らせる。


「この川の神たるセイドより、川を汚し恵みを貪る愚か者に鉄槌を下そう」


 香永かえをメインに、春菜はるな泰地たいちが不協和音を入れながら同時に発声することで、荘厳さを演出しよう――という意図。思っていた以上に練習は難航していたようだが、今は非常に上手く響いていた。愛しい春菜の活躍に頬が緩みそうになるのを抑え、苦悶の声をあげる。


「やめろ、神がなんだ! ここは俺たちの川だ!」


 神の語気が強まる。

「諸君らはこの川に相応しくない、流れの果てで悔いるがよい」


 コーラスと伴奏が再び盛り上がる。アクアズの三人はそれぞれ喚きながら、流されるように下手へと退場――ここからはしばらく休憩だ。山場を越え、福坂は嘆息する。


「おっつ」

「ええ」

 息を整えつつ、藤風と小声で労い合う。裏手に戻り春菜を探すと、同時に目が合った。手振りはなくとも、小さな首肯と微笑みだけで気持ちが伝わり合うのが分かる。


 同時に、詩葉がステージへ。


「お母さん! ゼッキー! ザッカさん! どこにいるの!」

 激流を聞きつけて駆けつけたギラハは、自分が取り残されたことを理解する。

「みんな、さっきの流れに呑まれて……大丈夫、きっと帰ってくるよね!」

 最後の明るさは空元気だ。ギラハは座り込み、やがて日が落ちると眠り出す。ホリゾントの移り変わりが夜明けを表わし、再びギラハは立ち上がる。


「日が明けても誰も帰ってこない……動けない場所に閉じ込められちゃったのかな、だったら助けにいかなきゃ……」


 そしてアカペラで歌い出すメロディは、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」。福坂とはそれほど関わりがない、そもそも事務的な会話以外はほとんど交わしていない間柄だが、歌やパフォーマンスの成長ぶりには尊敬を覚えていた。詩葉と陽向が互いを導いていた姿から、自分も春菜と共に成長したいと奮い立たされていた。


“ひとりじゃ、何もできない

 助けてくれる人を、探しにいかなきゃ”


 合流してきた伴奏の音源に合わせ、語りへと移行。希和は当初、歌のままで説明させようとしたらしいが、「この量をメロに乗せるの、歌う方も聴く方もしんどいでしょう」という意図で語りにしたらしい。本来は専門外である語りの演技も上手く仕上げてくるあたり、やはり詩葉は見習うに値する先輩ではあった。仲良くなれるかはともかくとして。


「力持ちのグランズだったら、空を飛び回れるウィングスだったら、はぐれたみんなを助け出せる。

 けど、嫌われたアクアズを助けてくれるなんて、そんな奇跡みたいなこと、ないよね……それでも、行かなきゃ!」

 決然と叫び、ギラハは歩き出す。

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