V. Rings Like Rainbow~高校三年~
Ⅴ-1 Involved in the source of your story.
合唱部と演劇部での、七月の
「私からのフィードバックはこんな感じ。じゃあここからの選曲、そちらにお任せするってことで」
「ありがとう、了解です」
「自分でも気づいているかもしれないけどさ、創作の話しているときの
八宵の言葉に首を捻る。
「……そうかな、楽しんでいるのは確かだけど」
作詞者としてはともかく、シナリオライターとしての側面をリアルで見せることはそもそも少ないのだ。
「歌っているときの飯田くんも楽しそうだけどさ。ストーリーとかキャラの話をしているときの方が、こう……自分を出せている気がする」
「ああ、それはちょっと納得。本来僕が向いているのって、歌よりもこっちだと思うし」
「でしょ? しかしまあ、君たちは表情の説得力が凄いと思うよ。この前のライブでの
「
「ウチらが演劇やってるからこそ、だね。他者を表現するんじゃなく、自分のまま音楽を表現することで化けるってのは……いい刺激だったし、少なからず脅威でもあったかな。
だから、君らの歌を取り込んで、どんな芝居ができるかってこと。楽しみにしてます」
「こちらこそ。良い寄り道だったってお互い思えるように、全力で」
*
当初、三年生の引退によって、各学年ひとりずつしか現役がいなかった演劇部だが、一年生がひとり途中入部していた。危ぶまれた大会への参加を再び目指しつつも、別のパフォーマンスの機会として合同企画が始動したのが、二月の頃。
「勿論、私たちはストレートプレイがやりたくてこの部にいるんだけどさ。小さい子も楽しめて、みんなで賑やかに演じるミュージカルってのにも、私は憧れがあって。
お互いに寄り道なのは分かってるけど、これまでに届かなかった人にも見てもらえるかもしれないし。何より、この学校でやりたいからさ」
八宵から語られたビジョンは、かつて
そうなると、次は演目の話になるのだが。
「既存のアレンジは観る側も演る側も安心だけど。表現だけじゃなくて、物語でも私たちを残したいって思うんだ。だからオリジナルにしたい、けどいつも
期待を寄せるような、期待を見透かすような、八宵の眼差し。
「飯田くん、やってみない?」
以前だったら断っていただろうけれど。自分が舵取りに関われる機会は、この高校生活で――二度とは巡り会えないようなこんなに大好きな居場所で、これが最後なのだ。
「うん、チャンスもらっていいかな。ただしリスクヘッジも込みで」
「あいよ、ダメだったとき用のネタは絞っとく」
*
そうして始まった、希和のミュージカル構想。
僕にとってミュージカルといえば劇団公演というよりもアニメ映画だったし、すぐに思い浮かぶ世界観といえばファンタジーだった。他に描けるジャンルはいくらでもあると分かっていたが、童話、あるいは寓話のような内容にすることはすぐに決まった。物心ついたときから幻想物語に頼っていた僕には、それが一番合うと思えたのだ。
次いでテーマ、どんな感情を物語に託すかも、それほど時間はかからずに決まった。自分が、
そこまで考えたところで、
〉紡さん
こんにちは、今日は相談がありまして。
今度の学園祭で、ミュージカル劇を発表することになって。できればオリジナルで演じたいよねって話から、僕が試しに書いてみることになったんです。
「周りと違うことの意味」を、ファンタジーに落とし込んで寓話的に描けたら……という方針なのですが、そこから先がすぐには固まらなくて。
こういうお題であれば、紡さんが良いヒントを出してくれるような気がしたので、頼らせてください。
そして期待通り、紡からは乗り気の返信がきた。
〉和枝くん
なんですかなんですか、とうとう君の部活に物語で関われるんですか!?
……というくらい、気分が高揚するお話でしたよ、ありがとうございます。
君の方針を聞いてすぐに浮かんだのは、生物における突然変異と適応の話です。周りと違う形質の個体が生まれることで、環境が変化したときに生き延びられる子が出やすくなる、という。
和枝くんたち自身が証明してきたこと……違うからこそ響きあう尊さが生まれること、違うからこその「らしさ」を好きになること、それらを表現するのも楽しいと思うのですが。学校でのミュージカルに合うような物語に落とし込むのは、少し難しいと思ったので。和枝くんの書く幻想の生き物が好きだから、という理由もありますが。
コミュニティの中で異端になった子が、その特質ゆえにみんなを助けることができた……というのが一つの切り口になるように思いました。
勿論、使ってくれなくても構いません。君が別の発想から作る話だって、きっと面白いです。
ただ、読んで救われるだけだった私が、こうして構想に関われることは、とても誇らしくて嬉しいのです。君が大好きでいた、君の物語の源であった人たちとの舞台に、最後くらいは関われたら、という希望もちょっとだけ抱いているので。
紡
*
結局、その紡からの発案が突破口になった。知性を持った架空の生き物を通した、「こいつはできない」が「こいつだからできた」に逆転する物語。
緑豊かな世界で暮らす、人間と獣が混じったような三つの種族。
水中を泳ぎ回るアクアズ。
逞しく大地を耕すグランズ。
大空を飛び回るウィングス。
彼らはそれぞれの特性を活かして食いつなぎながら、ときには助け合いもしていた。しかしある時から、アクアズは他の種族に害を及ぼすようになる。
水中で獲物を狩るために、自分たちには効かない毒を使うようになったのだ。狩りはしやすくなったものの、汚染された水を使うグランズや、同じく魚を餌にもするウィングスはその害を受けるように。論争の末、彼らは離れた場所で暮らすようになった。
物語の主人公は、アクアズに生まれた泳げない子供だ。元から泳ぎが苦手だっただけではなく、小さい頃に他の生き物を助けようとして溺れたことがトラウマになっていたのだ。
その子は泳げないことを嘲笑されながらも、必要以上に魚を狩る群れの姿に疑問を覚えていた。
ある日、川で狩りをしていたアクアズは洪水に襲われる。自分勝手に水を汚していたことが、とうとう「水の神」の怒りに触れたのだ。
激流に呑まれて行方知れずとなったアクアズたちと、狩りに出ていないために難を逃れた主人公。主人公は仲間を助けるべく、他の種族に助けを求める。しかし、かつて迷惑をかけられたアクアズに対する態度は冷たいものだった。
そんな中、ウィングスの一員が主人公の味方につく。そのアクアズは、かつて飛行中に川へと落ちてしまったときに、アクアズに助けられたという。実はそのウィングスこそ、かつて主人公が助けようとした人物だったのだ。
その二人により、次第に説得されていくウィングスとグランズたちは、やがてアクアズの救出に乗り出す。しかし彼らを待ち受けていたのは、強大な龍だった。
龍を出し抜いてアクアズを助け出すための、種族を越えた救出作戦がクライマックスだ。
*
そうしてシナリオが出来上がり、両部の新入部員に合わせて細かなキャラクターも含めた決定版を書き上げる予定だった。しかしその前に、曲の準備は進めておきたい。
シナリオに合わせて希和を中心に作詞を行い、メロディは既存のクラシック曲をベースにする、という基本方針。それがスムーズに決まったのは、詩葉からの提案がきっかけだった。
「まれくんが書いた言葉に合う曲、私と探してみない?」
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