第8話 ドア横
4人でそれなりの談笑しながら歩いているうちに、駅についた。
「じゃあねぇ!坂道くん、凛歩ちゃん!」
「じゃ」
「さようなら」
「さよーなら」
駅のホームで先輩達と別れる。..てかこいつの名前凛歩っていうの今初めてしったんだけど。同じクラスの俺より先輩の方が知ってるってどうなの。もうちょっと、周りに関心を持たなきゃな。
2人で列車に乗り込む。しばしの沈黙に耐えねば。
と思ったら野中の方から話しかけてきた。
「あ、坂道くん。さっそく帰宅部としての才能をはっきしてるね」
「え、なんのこと?」
「まだいくつか席があいてるのにドアよこをキープするのはなかなかのテクニック」
「別に意識してないけど!」
「帰宅競技しょうりの十戒。そのいち、列車ではドアよこをキープすべし。だよ」
「なんだそれ!?」
とかいう野中は俺の前に仁王立ちしていて、ドア横をキープするどころか吊革にも掴まっていないんだが。
そして列車の発車時刻まで残り3分となった。
『この列車は中央発ワンマン武壹間区行きです。ご乗車の際は足元にご注意ください』
とアナウンスがあるやいなや、どっとたくさんの人が 一気に入ってきた。列車というものは発車3分前くらいまでは存外空いているがぎりぎりのところで一気に人が増えるものだ。
「出入り口付近のお客様は中ほどまでお進みください」
駅員さんが呼びかける。だが中ほどって言ってももう限界なんだけど。
野中に目をやると、
「うぅ」
埋もれていた。野中は背が低い方なので帰宅ラッシュのサラリーマンに流されてる。
「野中、大丈夫か?」
「うぅ、無理...」
声色こそそう変わらないものの、その表情はいかにも『顔に縦線』の表情だ。...悪趣味だけどちょっとおもしろいな。
そんな中、列車は出発した。
俺たちが降りる駅、新田山駅は降車人数が多いのだが、それまでは乗車人数は増える一方。ドア横をキープしている俺はほとんど変わりないが、乗客の波に呑まれ、吊革を掴むことさえままならない野中の状態はどんどん悪化。
「ゔぃ〜っ、へあっ!!」
「ひゃあ!」
花粉症らしきおじさんがくしゃみを撒き散らした。身長が低めの野中にとってこれは痛恨の一撃!かと思ったが持ち前の反射神経で素早く屈み、事無きを得たようだ。野中は振り返っておじさんをキッと睨むも彼にとってはどこ吹く風。あーあ見てらんない。
混沌の状況は回復しないままやっと、新田山駅に着いた。
人混みをかき分け、降りるのにも一苦労。やっとのことで降車した。
「大変だったな」
「さいあく」
なんかげっそりしてない?野中の後ろにどどめ色の陰気なオーラが見える気が。
そんな野中といっしょに、エスカレーターで一回に降りる。
新田山駅は最近改築され、二階で列車の乗降がされ、改札は一回にあるという造りになっている。
駐輪場まで歩いていく。あ、俺今日チャリじゃなくて歩きだったっけ。
「野中、俺今日歩きだった」
「そう」
「じゃ、俺こっちだから」
「うん」
たぶん野中はチャリなんだろう。短い返事を一つしたのを聞き遂げ、俺は野中に背を向けて歩きだす。
少し行くと、人がぎりぎりすれ違える程度の幅の川があり、そこの下には県内ではそこそこの大きさの河川が流れている。そこから眺める景色が、俺は好きだ。今日は陽がすっかり落ちているが、普段はちょうど夕焼けの頃で、川に映る太陽がきれいだ。
とは言っても、普段からそんな情緒的な気持ちにならないんだけどな。だけどなんか今日はそんな気持ちだ。
...色んなことがあったけど、これはこれで良かったのかもな。
「あのぉ、ふるさとへぇ、かえろかなぁあ かーえろぉかあなあ〜〜っと」
「ごきげんだね、坂道くん」
!?
「お前、いつからいたんだ!?」
「いつって、ずっといたけど」
「なんで!?さっき別れたじゃん」
「私も家こっちだし」
なんてこった!普段から一人になると歌うやつって思われた。
「いやァ、じゃあ、一緒に帰ろうか、途中までね、へへ」
半笑でそういった俺はたぶん動揺を隠せてない。
「うん」
それから、もう20分くらい歩いただろうか。そしていくつの角を曲がっただろうか。一向に野中と別れる気配がないんだが!
野中はずっと俺の後をついてくる。なにこれストーカー?
とうとう俺の住むマンションまでやってきた。
「じゃ、俺ここのマンションだから、じゃあな」
「そうなの」
てくてくてく
「そうなの、じゃないよ!なんでついてくるんだよ!」
「私の家もこっちなの。...もしかして自意識過剰?」
「!!」
さいですか...
それから野中はとうとう俺の部屋の前まできた。そして
「じゃあね、おやすみ」
「おう...」
隣の部屋へ入っていった。
クラスの謎の不思議系美少女はお隣さんかよ!
帰宅競技部の日常 ヒマノヶ丘 @_himanogaoka
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