優しい大人

あるところに、優しい大人がいました。


大人は旅をしていました。

旅の途中で寄った村で、皆から虐められている子供を見つけました。

大人は子供に、全ての持ち物とお金を与え、愛情を掛けて育てました。


そして幾年か経った頃、子供は意地悪な大人になっていました。

大人は息も絶え絶えに、子供の無事だけを祈り、毎日お金を与えていました。

子供は調子に乗って、小さな子供を虐めたり、女の人を殴ったりしては顰蹙を買っていました。

ですが、大人に免じて、子供は許されていたのです。


今までの全ての「ごめんね」という気持ちが、子供を生かしていたのです。


それから子供は、ある原っぱに出て、そこに少女がいるのを見つけました。

これまで見たこともないほど美しい少女に、子供は近づき、はっとして立ちどまりました。


少女は大人の子供でした。

少女は大人のことを慕い、会いたい、会いたいと言って泣いていたのです。


子供は傍に座り、生まれて初めて人に優しく接しました。

これまで自分がされていたように、大人のように少女に優しく接しました。

そして少女に大人のことを打ち明けました。


少女は激高し、子供の頬を打ちました。

子供は成されるがままにいましたが、次第に腹が立ち、少女を銃で撃ちました。

少女は足を撃たれ、歩けなくなりました。

淀んだ目で、子供を見ました。

あの綺麗な、美しい目はどこにも無くなりました。


子供は急いで、大人を少女の元へと連れてきました。

背負って、担いで、重い大人を一生懸命連れてきました。

少女は息絶えていました。

そして大人もまた、子供の腕の中で「ありがとう」と言って、無くなりました。


子供は生まれて初めて、人の痛みを知ったのでした。

「死」を得ることでしか、子供は人の痛みがわからないほどに、今まで痛めつけられ、傷つけられて生きてきたのです。

ですがそれ以上に、大人は愛してくれました。

少女をまた愛しました。


そして愛を失いました。

それは永遠に戻らない者でした。


子供は二人の墓を作りました。

恋人同士の二人が、そこを通りかかり、女が産気づき、子供に助けを求めました。

男が走って人を呼びに行き、その先で雷に撃たれました。


目の前で男を失った女は、白目を剥いて死にかけました。

「生きろ!生きるんだ!生きなくてはダメだ!!」

子供は必死で女を叩き、子供を取り上げ、ひとまず助けました。

子供の名前は、愛しているのloveと名付けました。

ラブは、今日も元気にすくすくと育っています。


愛されていない父親の元、永遠の眠りについた母親と共に、今日も丘へ登ります。

「ね、これは誰のお墓なの?」

ラブが尋ねると、子供は「父さんの墓さ」と、儚く笑って、ラブの頭を撫でました。


その頃、天の少女が泣きました。

会いたい、会いたいと言って泣きました。

もう出会っているよ、と大人が話しかけても、少女は親を知らないのです。

少女の涙が地に落ちました。


ラブが天を見上げるころ、その目に涙が落ちました。

ラブはわあわあ泣き出した空を見て、「帰ろうよ父さん」と子供の手を引きました。

子供は墓に膝ま付いて、ラブを抱いて泣きました。

わあわあわあわあ泣きました。


まだ愛の意味を知らないラブと、愛を知っても持たない子供と、眠りながら男の夢を見て涙を流す女を見て、少女が儚く微笑みました。


すると、ラブの足元から、一本の百合の花がするすると伸びて咲きました。


「あ、母さんが目を覚ましたよ!」


ラブは不思議なことを言い、百合の花を掴んで引き抜き、急いで女の元へ走りました。その後を子供は追いました。

女は目を覚まし、ベッドの上で微笑んでラブを迎えました。

それから、「あなたの、お名前は?」と子供に尋ねました。


子供は、「サッド、悲しみの、サッドだ」と答えました。

それから、女は「私は、ユー、あなたであり、私であるという意味の、ユー」と答えました。


「サッド、ありがとう」


ユーがサッドを抱きしめました。

初めての感触に、サッドは泣きました。

ラブは不思議そうに、「どうしてさ、初めて会うみたいだよ」と言って、それでも嬉しそうに、父親と母親を見まわしました。


天で大人を見て、少女が「お父さん?」と聞きました。

「やっと目を開いてくれたね」

大人が嬉しそうに笑ったころ、太陽が姿を見せ、天に照らされて大地が輝きました。


二人の墓には、百合の花が百本も千本も、無限に咲き誇りました。


そこは愛を知る人の丘として、名高い丘になりました。

今でも恋人たちは、そこを訪れます。


ラブは、大人になりました。

優しい大人になりました。

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植物の繋ぐ物語 夏みかん @hiropon8n

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