第14話 『聖女の騎士』

 シホが抱いた違和感。


 それは、キョウスケがクラウスの


「貴方のような剛剣を使う人が一番苦手なんですよ」


「ならば退け。命までは取らん」


 クラウスが剣を振るう。先ほどシホの前に立ち、クラウスの剣を避けて見せたキョウスケがその剣を再び避けて下がり、代わりに二人のキョウスケがクラウスの左右から飛び出し、手にした短刀でほとんど同時に斬り付ける。クラウスはその一方を弾き、もう一方を巧みに躱し、さらに短刀を弾いた剣を旋回させて、反撃の一撃を繰り出す。一刀は短刀を弾かれたキョウスケの胴を薙ぎ、もう一人のキョウスケの動きをけん制した。


 その一連の動きの中で、後方に退いたキョウスケが、再び三人にその影を増やした。


 そうか。


 シホは懐の短剣を抜いた。


 百魔剣の一振り。魔剣ルミエル。


 かつて『聖女』ラトーナ・ミゲルが魔剣封印のために使い、それをシホが受け継いだ、光を力に変える『騎士』の一振り。


 この魔剣の力ならば、あるいは……


「命までは、って。とても神官とは思えないですね、クラウスさんは」


「……わたしは神に仕えているわけじゃない」


 三人に分かれたキョウスケたちがクラウスに飛び掛かる。文字通り、高く跳躍し、鳥のように滑空して迫る様は、もはや完全に人間の動きを超え、人ならざる何かの領域に踏み込んでいる。


 先ほどの一人と合わせて、四人のキョウスケがクラウスを取り囲む。それを悟って、一人のキョウスケを、半ば強引に長剣を振るい、身体ごと体当たりをして、自身の体重で押し切るように斬り捨てたクラウスは、残る三人の姿を正面に捉えるように振り返って、剣を構える。一対多数の戦闘では、背後を取られないことが大前提になる。シホも魔剣との戦闘訓練で、ラトーナやクラウスから教わったことだった。


「神官は神に仕える者でしょう?」


「わたしは違う」


 三人のキョウスケがクラウスに迫る。クラウスはあえて、かつて家屋の石壁だったであろう、遺跡に背を預ける形で剣を構えていた。


「わたしは『聖女の騎士』だ。神などどうでもいい」


「『光の魔導士』に仕える者、というわけですか。面白い方ですね、あなたは」


「それがわたしだ。それ以上でも、それ以下でもない」


 クラウスの左右から、先ほどとまったく同じ形で、二人のキョウスケが一瞬にして間合いを詰めた。


 その瞬間、シホは見た。


 クラウスの背後の石壁。


 月明かりに薄く浮かんだクラウスの影。

 その影が、動いた。


「クラウスさん!」


 シホが叫んだ時には遅かった。石壁からわき出すように現れた四人目のキョウスケが、クラウスの背中を斬り付けた。衝撃と驚愕に、一瞬身を止めたクラウスを、さらに二人のキョウスケが斬り付ける。


 ぱっ、と、青白い月光の中に、クラウスの鮮血が舞った。


 ゆっくりと、膝から、クラウスの長身が、地面に倒れた。


「ああ、怖かった。身体が大きくて、力が強くて、剣が速い人は苦手だなあ。何度戦っても戦い辛いや」


 倒れたクラウスを見ながら言ったキョウスケは、シホのほうに向き直った。


「さて、どうしますか、『光の魔導士』さん?」


 やるしかない。


 確信はなかったが、シホは魔剣ルミエルに力を込めた。

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