第16話 妹と第一王子

 気が付けば、神殿に戻っていました。この世界の魔法常識最高のスキル量に、神官の方は驚いていましたが、司祭様は平然としていました。

 司祭様は『狩り友』なので、この程度のスキルは予想していたと思います。大規模な魔物討伐になると、けが人も増えるので回復が行える聖魔法所持者が必置なのです。それで度々、怪我人回復の手伝いをしていたのですが、その時に能力に悩んでいた司祭様の相談に乗ったりしていました。。


 管理者Xが取り繕った魔法スキルですが、鑑定すると


 精霊魔法:魔法を簡易に発動させる為の法則システム

     属性精霊の祝福が必要。


 無属性魔法:法則システム外の要因で発動した魔法。


 と言う事です。管理者Xは、好きにして良いと言っていましたが、私の魔法理論を広めても良いのでしょうか。

魔法の素養のある身内には、すでに指導をしているので今更ですが。


無事?『祝福の儀』を終えた、ある日。


王都から『魔の森』の視察の為、視察団が訪れました。第一王子『イチロ・アズマ・レグルス』率いる、文官中心の視察団です。

我が領地には、王都から武官が来ることはありません。まあ、理由は『筋肉量』の違いなのですが。


「これが、オオモリ大森林ですか。」


『魔の森』と、最も隣接する大城壁上の通路から森林を見渡し、王子が感嘆の声を上げます。それもそのはず、見渡す限り地平線の彼方まで森しか存在しない、一種独特な風景が広がっているのですから。

初めて見る人は、その光景に飲まれてしまいます。


今日の王子の接待役は、我が家の女性陣とトラ兄様です。不慣れな土地で、ゴリラと熊の接待では気が休まらないでしょうから。


「どうします?軽く魔物でも狩ってみますか?」

「軽く狩れるものなのですか?」

「大丈夫ですよ、トラ兄様が付きますし私も援護しますので。」


さて、お土産と考えると人型の『オーガ』よりも敷物にできる、『クリムゾンベアー』か『ジャベリンタイガー』か・・。

そう考えていると、急にゴリラがそわそわしだした。


「駄目ですよ、お父様。今日はトラ兄様に任せる約束ですよ。」

「ち、違うんだサクラ。なぜか急に筋肉がうずきだして・・。」


むっ。こいつらの筋肉は軽視できないところがあります。

私は、魔の森の奥に向けて索敵範囲を広げていきます。ああ・・。


魔物大暴走スタンピードですね。」

「サクラ嬢。スタンピードとは?」 と王子。

「動物がパニックで集団暴走を起こすことです。」

「大事ではありませんか。」

「いえ。この程度の魔物大暴走スタンピードなら日常茶飯事なので、お父様おひとりでも対処できます。」

「それは、それは・・。」 顔を引きつらせる王子一同。


「それではお父様、お願いし・・むむ。」

「どうした?サクラ。」

魔物大暴走スタンピードではなく、トレインの様ですね。」


魔物の集団が視認できる距離まで来た時、その先頭を走る人間がいる事に気が付いた。


名前:マサオ・ロナウド

職業:ロナウド大司祭の孫


魔物の集団の先頭を大きな卵を抱えながら、大司祭の孫が走っています。

司祭一家のバカ息子ですか。ドラゴンの巣から卵を拝借したが見つかり、追い掛け回されているうちに、他の魔物を巻き込んだといったところでしょうか。

ひとりで魔の森に入る勇気は認めますが、我が領地に魔物を引き込むとは良い度胸です。

一人ではないですね。バカ息子の後ろを数人の冒険者が追随しています。


「貴様ら!私の盾になるのが仕事であろう。何故、私についてくる!」

「黙れ!最初から俺たちをおとりに使うつもりだっただろう!」

そういう事らしい。


「サクラ嬢。トレインとは?」

「王子。あの、ドラゴンの卵を抱えたゴブリンが、魔物の集団を先導して暴走するさまを言います。」

「ゴブリン?私には人間に見えますが?」

「この場合、あのゴブリンを止めれば魔物の暴走も止まります。誰か、あのゴブリンを弓で射殺いころしなさい。」

「この距離から弓が届くのですか?」

「我が家の弓兵は、優秀ですので。」

「それはすごい・・、ではなく。あれは確か大司祭のお孫さんでは?」

「ちっ!」

さすが鑑定持ち、この距離からでも見えるのか。第一王子は優秀な鑑定スキルを持っています。レベル差が大きいので、私を鑑定できるとは思いませんが。

さて、どの様にして処分しましょうか・・。


「父上、たいへんです!」 「どうした、クマ?」


どうやら帝国が我が国に侵攻を開始したようです。


「そんな馬鹿な!今、王都で和平に向けた交渉の真っ最中のはず・・。交渉が決裂したのか?。」


王都に向かう、その交渉団を宰相のバカ息子が襲撃したそうだ。

そもそも、甘いですよ王子。帝国が国境線に軍を集結させていると言う情報は、数週間前にすでにつかんでいます。

後は、いつ侵攻するかタイミングを計っていたのでしょう。


「それで状況は?」

「カナリ侯爵領に、深く進攻して王都をうかがう勢いです。」

「私も、今すぐ王都に取って返して・・」

「それには及びませんよ王子。この様な事態にそなえた準備に怠りはございません。」

「トラ兄様、例の作戦で。」

「わかった、サクラ。」

「どういう事でしょう?」

「トラ兄様が一千の精鋭を率いて敵司令部後方に瞬間移動テレポート、これを殲滅した後、補給線を分断しながら敵を壊滅します。」

「お父様とクマ兄様にも同行していただくので、もう二度と王国に侵攻できないダメージを負うでしょう。」

瞬間移動テレポート?」


帝国軍壊滅に向けて城内があわただしくなります。


「王子。我々も参りましょうか。」

「へ?ど、どこへ?」

「魔物の討伐です。大丈夫ですよ、王子は止めだけさせばいいですから。」

取り敢えず、バカ息子は闇に葬るとして。王子には、何を狩って頂こう?どうせなので、一番後ろのドラゴンを狩っていただこうか。

「うん、それがいい。」

「へ?な、何が良いのですか・・。」


私が魔力を高めると、魔の森に冷気があふれた。やがて、森は動くもの一ついない銀世界へと変わる。

大司祭の孫は特に強力に冷凍して、町の広場に飾った後、食用肉として出荷した。

卵は地竜の卵だったので、弟の騎竜にする為、孵化している。


それ以来、第一王子は私から目をそらす。










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悪役令嬢の妹は最強です。 るりちよ @ruritiyo

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