第27話 魔宴

 隠し扉の奥は長い螺旋階段。

 俺達三人は音を立てぬように静かに歩く。


「長いな」


 アルカードさんは呟く。


「多分この地下室、混凝土コンクリートで出来ているわ。それに深い土の下だから見つけるの大変だったのよ」

「生命の気配って奴がしないのか?」

「ええ、ごく微弱な……おミケさんがプレシャス持ってなかったら見つけられなかったかもしれない」

「相手はプレシャス持ちとの戦いを想定しているってことか」

「そうなるわね」

「アマタ、先行するなよ。耐久力の有るおいらが相手の出方を伺う」

「分かりました」

「それに……」

「なんです?」

「斬り合いになったとして、お前さんの剣が鈍ってる可能性は否定できねえからな」

「……手厳しい」


 否定することもできない。

 その後は特に何の会話も無く、ひたすらに下へ降りていく。

 鳥居庸蔵の時もそうだったが、地獄の底へと降りていくような感覚だ。


「二人共、近いわ」


 レイちゃんがそう囁いた。ちょうどその時、遙か下の方から灯りが見えてきた。

 俺達は無言で灯りの方へと降りていく。

 降りている間はずっと、クチャ、ペチャ、という水音が聞こえた。


「……一体あれは何の音でしょう」


 アルカードさんは無言で立ち止まる。


「アマタ、待ってろ。おいらだけで行く」


 俺は首を横に振る。


「そうはいきません」

「……そうかい。何が有っても勝手に動くなよ」

「勿論です」


 俺は首を縦に振る。

 そしてまた降り続け、ついに螺旋階段の終着点までたどり着いた。


     *


 階段の終着点には簡素な作りの扉が一つ有るだけだ。

 ピチャ、クチャという水音は先程から止まない。

 一体、この先で何が起きているのか……俺には分からない。


『この先におミケさんが居るわ』


 俺の頭の中に声が響く。

 俺はアルカードさんの肩を叩いて頷く。

 後は予定どおりに押し入るだけだ。


「行くぞ」

「はい」


 アルカードさんは思いっきり拳を振り抜いて、扉を吹き飛ばした。

 その瞬間、後ろに居た俺は確かに見てしまった。


「うわああああ!?」


 驚いて腰を抜かすカヘエ。

 彼の口からは、叫んだ勢いで目玉が零れた。


「目玉!?」


 そして眠っているおミケさん。

 彼女の大腿はごっそりと削ぎ落とされて薬草らしき葉が詰め込まれている。


 口からこぼれ落ちた目玉、削ぎ落とされた太腿、まさか――食ってるのか?


 それに気づいた時、俺の視界は一瞬だけ暗闇に包まれた。


「あああああああああああああああああ!」

「ア、アマタ君!?」


 次に意識を取り戻した時、俺は籠釣瓶村正ダインスレイブを振り上げて走っていた。

 俺の進路上でカヘエが腰を抜かしている。


「おいアマタ!?」


 アルカードさんの声が背後から聞こえる。


「ダーリン!?」


 レイちゃんの声が背後から聞こえる。


「死ねえええええええええええええええええええええええ!」


 喉は俺の意思よりも早く殺意の雄叫びを上げる。

 ああ、そうか。

 俺は籠釣瓶村正ダインスレイブを抜いて、部屋の中に飛び込んでいるのか。

 ああ、そうか。

 やっぱり俺は殺人鬼だ。

 いや、俺は、俺は――!

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