ツンデレピアニスト

鷹司ひな。

出会い

音楽室からピアノの音が聞こえてくる。

その音につられるようにさくらは走り出す。

音楽室のピアノを弾いているのは見覚えのある人物だった。

(リヒト・ジキルランド・轟…!)

こちらに気づいたのか演奏が止まった。

「誰だ?」

急に声を掛けられ焦ってしまう。

「音楽科1年の小野寺さくらです…」

わー、私ちょー有名人と話してる?

「知らない。」

リヒトはさらっと言った。

な、なんかクールな人だなー。

リヒト・ジキルランド・轟は天才ピアニストで

演奏聞いた人は涙すると有名だった。

「俺のピアノを聞きに来たのか?」

さくらは無意識に首を縦に振った。

するとリヒトはふっと笑った。

この人笑うんだ…!てか当たり前だよね。

ピアノの音が部屋中に響く。

なんか悲しい曲…

なぜか涙が出てくる。

「あれ?なんで?」

「俺のピアノに涙しろ…」

演奏が終わっても涙は止まらなかった。

「なんで止まらないの?」

泣いているさくらを見てリヒトは満足そうに笑う。

なんで、この人笑ってるの?

「俺のピアノに涙しないやつはいない」

…?何言ってんだろ。

「なぜなら俺は、天使だから…!」

と決めポーズを決めている。

「リヒトってなんか抜けてる?」

思わず口に出してしまった。

今までのリヒト・ジキルランド・轟に対する印象が一瞬で変わってしまった。

どこか抜けてる天才ピアニスト…

「俺が抜けてる?」

あー、自覚無しか(笑)

「てめぇのほうがなんかパッとしねー感じに見える。」

はぁ?なんなのこの偉そうな感じすげー腹立つだけど。何様よこいつ!

すると学校中に朝の予鈴が鳴った。

急がなきゃ…!

「じゃ、私これで!」

そう言い残して音楽室を後にした。


「さくらがギリギリとか珍しいね。」

そう言って友人の唯が声を掛けてきた。

「ちょっとね…。」

「えー!すごく気になるんだけどっ!」

ガラッ!

突然教室のドアが開いた。

そしてリヒトが入ってきた。

「えっ!リヒト・ジキルランド・轟!?」

クラスがパニックになる。

同じクラスとか聞いてないんだけど。

それにしても季節外れの転入だな。

そんなことを思っているとリヒトが隣に座った。

「なんだ。同じクラスだったのか。まあ、よろしく。」

「うん。よろしく。」


昼休み唯が慌てて声を掛けてきた。

「さくらリヒト・ジキルランド・轟と知り合いなの!?」

「まさか!朝に音楽室で会っただけだよ。」

「なにそれ。つまんないなー!」

唯はリヒトのファンでピアノ専攻の1年生の中でも優秀な生徒だ。

「選択教科のとき一緒だから生でピアノ聴けるかもしれないじゃん!もう感動!」

ひとりで盛り上がってる唯にさくらは苦笑した。


放課後音楽室でひとりヴァイオリンを弾いているさくらをリヒトは見つけた。

朝に会ったときと違った顔つきのさくらにビックリしてしまう。

「本当にあいつさくらなのかよ…」

力強い演奏にリヒトは圧倒されてしまう。

演奏を終えたさくらがリヒトに声を掛ける。

「おー、リヒトじゃん。」

「ああ。」

普通のさくらだ。しかしヴァイオリンを弾いているさくらは別人のようだった。

「じゃあ、レッスンあるからまた明日。」

そう言ってさくらは行ってしまった。

「あいつおもしろいな。」

リヒトは久しぶりに楽しめそうだと思った。


「進級テスト誰と組むの?」

唯に言われてやっと思い出した。

もうそんな時期か。

進級テストはピアノ専攻とヴァイオリン専攻の生徒がペアを組んで発表をする成績にも関わる大切なものだ。

「すっかり忘れてた…」

「さくらってたまに抜けてるとこあるよね。」

唯は呆れたように言った。

リヒトは誰と組むのかな…。

「って、何考えてんだろ。」

とりあえずペアの人探さなきゃ!

リヒトはたくさんのピアノ専攻の人に囲まれていた。

やっぱり人気だな。

リヒトはうっとうしそうに誘いを断っている。

そしてさくらと目が合うと手を引いて抱き寄せる。

「俺、こいつと組むから無理。」

えっ?えーーーー!?

そしてさくらの手を引いたまま走り出す。

「どういうこと?」

さくらは突然のことに驚きを隠せない。

「てめぇのヴァイオリン気に入ったから。」

思わず笑ってしまった。

「素直にペア組めっていえばいいのに…」

「んな恥ずかしいことさらっと言えるか!」

リヒトは恥ずかしそうに背を向けた。

そんな姿を見てついからかいたくなる。

「私のことどう思ってんの?」

リヒトは向き直って投げやりに言った。

「てめぇ以外に考えられねーよ」

それてどういう意味?

ぽかんとする私にリヒトはめんどくさそうに言った。

「ペアなんてさくら以外考えられない。」

少し間があいてリヒトが口を開く。

「それに…お前のこと好きかもしれない。」

リヒトの初めて見る顔にどきっとした。

「そうだったんだ…」

「責任取れよ!」

「なんの?」

「だから…!俺と付き合え!」

さくらはふっと笑った。

「素直じゃないなー…こちらこそ。」

さくらの返事を聞いてリヒトは照れくさそうに笑った。


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ツンデレピアニスト 鷹司ひな。 @kanakana0508

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