第16話「休日(中編)」
勘弁してくれ、ほんまに。
急に口を開いたと思ったら何をカミングアウトしだすんだコイツは。
「座敷童...?」
なずなが不思議そうな顔をする。
それはトオルと竜ケ崎も一緒だ。
「いや、こいつちょっと変で...」
「変じゃない!座敷童なの!」
もうやめてくれ。
「そっか...」
え?
「座敷童かぁー!いいねぇー、よろしく!座敷童さん!」
これは。
「分かってもらえればよろしい!」
なずなとなゆたが堅い握手を交わした。
これはあれだ。
さすがのなずなでも信じてないやつだ。
まあ、当然だろ。
どんなオカルト好きでも目の前に普通の幼女が現れて座敷童だなんて言い出したら子供の可愛い冗談にしか思わない。
なずながちらりと俺に目配せをしてくる。
そして俺の耳元で、
「おもしろい妹さんだね」
「あぁ、まぁな...」
なんとか丸く収まったらしい。
「じゃあね、私たち本物が出る!って噂のお化け屋敷に行くから!座敷童さんもどう?」
「ぜったいやだ!」
「座敷童さんなのに幽霊怖いの?」
「うるさい!」
「ごめんごめん、じゃあまたねぇー!」
なずなたちは去っていった。
少しおかしな事を言う俺の妹程度に認識してくれたらしい。
「誰、あいつら」
「俺の高校の同級生だよ、藤堂なずなと谷山トオルと竜ケ崎剣士。まさかこんなとこで会うとはな」
「オカルトなんとかって言ってたけど?」
「あぁ、なずなが中心でやってるオカルト研究会っていうサークルだよ。なぜか俺も半ば強制的に入れられたけど...」
「翔は良かったの...?今日オカルトなんちゃらに参加しないで」
なぜか不機嫌そうな表情をして訊いてきた。
「あぁ。お前とここに来る約束してたからな」
「ふーん」
なゆたが急に黙りだした。
でも表情はどこかさっきよりほころんでいる。
「どうした?」
「いや、別に...。あぁ、そうだ。あれ乗りたい」
「あれ?あぁ、観覧車か。遊園地の定番だな」
「あれなら翔も乗れるでしょ?」
「おう、全然オッケーだ」
俺に気を使って乗り物を選んでくれたのか。
あとでアイスでも奢ってやろうかな。
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観覧車。
高いところなら平気かと言われればそうでもないが、これならまだ大丈夫だ。
ただ狭い空間にずっと座っていればいいのだから。
あいにく閉所恐怖症までは兼ね備えていなかったことに感謝だ。
「すごーい、めっちゃ綺麗!」
なゆたが窓に張り付くように外の景色を見下ろしている。
なにせ観覧車に初めて乗るんだ、当たり前のリアクションと言えよう。
「あぁ、街の風景が一望できるなんて普通じゃできないよな」
「私、遊園地来れて良かった!」
一点の曇りもない笑顔でなゆたが俺にそう言ってきた。
ほんとにこいつは気分の移り変わりが激しいな。
「そうか。まぁ、お前が俺の同級生たちの前で座敷童とか言い出した時はどうしようかと思ったけどな」
「なんでよ、本当のこと言ったまででしょ?」
「座敷童なんて普通の人間は信じないよ。あーゆー時は妹とか言っておけば事は早く済むんだ」
「別に座敷童だってことを言いたかったわけじゃないわよ...」
「そうなのか?じゃあなおさら、普通に妹の振りしてくれれば良かったのに」
「それはやだ」
「なんでだよ」
「なんか...やだ!」
「なんだよそれ」
「私、翔の妹じゃないし...」
「いや、そりゃそうだけどさ...」
どうした急に。
たしかに妹でもないのに妹と言われるのはどこか引っかかるだろうが、そこまで否定するまでのことか?
女の子の気持ちはわからん。
「ねぇ」
「ん?」
「なんかおかしくない?」
「おかしい?」
なゆたが窓の外を見ながら不思議そうにしている。
俺も外を見てみる。
確かに何かがおかしい。
さっきまで動いていた外の風景が全く動いていない。
(おやおやおや?)
「止まってる...?」
今頃気付いた。さっきまで動いていた観覧車が今は動いていない。
そこに急なアナウンスが入ってきた。。
「現在、強風のため、安全を考慮し観覧車を一時停止させております。ご迷惑をおかけしますがそのままお待ちください」
原稿をただ読むだけみたいな感情の無い無機質なアナウンスだった。
「なんだよそれ...。それに強風?強風なんて吹いてたっけ...うわぁ!」
「きゃぁ!」
直後、ほんとに強風が吹き荒れ、俺たちの乗ってる観覧車を襲った。
「ちょっと、なにこれ!」
「そういえば今日、朝からちょっと風強かったけど...て、うわぁぁ!」
容赦なく吹き続ける突風。
大きく左右に揺れる空間。
さすがに身の危険すら感じてしまう。
刹那、なゆたが俺のいる方の席へと飛び込んできた。
「ちょ、おま」
待ったを聞かずに、なゆたはすかさず俺にしがみついてきた。
まぁ、ムリもない。
「無理無理!ぜったい無理!死ぬ!」
なゆたが叫びだす。
「死なないって!大袈裟すぎだよ!」
「こんなの絶対死ぬから!無理!!」
「だから死なないって!死なないとは思うけど...」
「思うけど...?」
「昔強風で扉が開いちゃってそこから転落するっていう事故は聞いたことはある...」
「...」
「...」
最悪だ。
3秒前の自分を殴りたい。
この状況で考え得る中で最も言ってはいけないことを言った気がする。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
叫びだすなゆた。
当然の結果だ。
「わぁぁぁ!ごめんて!大丈夫だから!たぶんここは大丈夫なとこだから!」
「たぶんて何よ!もう無理!絶対観覧車なんか乗らない!」
有無を聞かずに強くなる強風。
自然に対する怒りはどうしようもできない。もはや神にすら頼りたい。
「もうムリィ~...」
なゆたの声が涙混じりになっていく。
「だ、大丈夫だって...ほら、下に着いたらアイス買ってやるから...」
「そんなんで釣られるか!」
「釣られないか...」
「バカ!」
なゆたが俺にしがみつく力が強くなる。
そのまま俺の方に顔をうずめだす。
シャツの袖に微かに湿ったものを感じる。
「なゆた...、泣いてるのか...?」
「泣いてるわけ...、ぐすん」
泣いてる、確定。
「いや、だから大丈夫だって...」
なんとか安心させてやりたいという気持ちからか、気付いたら俺の片腕がなゆたの肩を抱き寄せようとしていた。
しかし、
「きもい」
「うっ」
「離して」
「離してってお前...」
強風の追加攻撃。
「きゃぁぁぁぁ、離さないで離さないで!!」
「どっちだよ!!」
阿鼻叫喚。
カオス。
俺たちは叫び続けることしかできなかった。
そうしているうちにどれくらい時間が過ぎたろう。
こんなことを繰り返してるうちに強風は止み、無事に観覧車は再び動き出した。
安心はしたが地上に着くまで俺たちの会話はなかった。疲労困憊でそれどころじゃなかった。
生きた心地がしない。
やっとの思いで地上に降りるなり、先に口を開いたのはなゆただった。
「もう...、観覧車...嫌い」
「あぁ...俺もだ...」
遊園地で乗れないものがまた一つ増えてしまった。
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