第15話「休日(前編)」
ゲートをくぐるなり目に入ってくるのはカップルや家族連ればかり。
これぞ遊園地に来た、といった感じだ。
遊園地に来るなんて何年ぶりだろうか。
着物ではさすがに違和感があるので事前にし〇むらで買っておいたいかにも小学生の私服らしい服を装ったなゆたと、俺は今遊園地とやらに来ている。
この年になってこんな場所にくるとは思わなかったな。
友達と呼べる存在もさほど、ましてや彼女なんて出来るわけもないし。
「スカートもなかなか悪くないわね」
「それはどうも」
俺が買ってきた服を気に入ってくれたらしくて何よりだ。
特売のワゴンから適当に引っ張ってきたとは言えないけど。
会計の時はなかなか恥ずかしかったんだからな。
家の最寄から電車で30分。
この辺で遊園地と言えばここくらいしか思い浮かばなかった。
もう30年近くは運営してる遊園地だが、いまだに色んなアトラクションが新設されていて、入園者の数はいまだに途切れていない。
「ねぇねぇ!あれなに!」
なゆたは複雑に入り組んだ鉄骨の塊に興味を示した。
「ジェットコースターだよ。見たことない?」
「聞いたことならあるわ!でも実物を見るのは初めてね」
こいつにとってはどれも新鮮なものなんだろう。
俺も幼少の頃のその心を取り戻したい今日この頃である。
「ねぇねぇ!じゃあ、あのぐるぐる回ってるのは?」
「あぁ。コーヒーカップだよ」
「楽しそう!あれ乗りたい!」
「おう」
最初の乗り物はコーヒーカップに決まった。
しかし。
入場して席に着いてから後悔した。
おれは三半規管がもともと弱い方で、コーヒーカップなんて乗ったらすぐ目が回って貧血で倒れてしまう。
遊園地なんて何年も来てないせいで忘れていた。
なぜ今頃思い出したんだ俺よ。
コーヒーカップが動き出す合図の音が響いた。
「なぁ、なゆた、俺...」
嫌な予感と共に冷や汗が俺の額に湧き出る。
「えーーい!!」
「おい!」
最悪。
無邪気なこの子供は中央のバーをぐるぐるを回し始めた。
「なにこれ、めっちゃ楽しい!」
「おい、ちょ...」
「えーーーい!」
さらに加速する回転。
それも右にも左にも。
もうだめだ...
「う...」
「楽しいわね!...て翔?」
「む、ムリ...」
「ちょっと翔...?か...」
意識が遠のく。
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「ここは...」
太陽の日が差し込む。
ベンチに寝かされているらしい...
すると視界に覗き込むようになゆたの顔が入ってきた。
「やっと起きたみたいね」
「あれ、俺...」
「覚えてない?急に気絶しちゃって、係員さんがここまで運んでくれたのよ」
「そう...なのか」
「もぉー、あーゆーの苦手なら先に言ってよね。情けない」
本当だ。
情けない。
「ごめん、俺すぐ目回るからさ...」
「はい」
なゆたがペットボトルの水を差しだしてきた。
「ありがと」
「いいのよ。じゃあ、ジェットコースターとかも無理なの?」
「あぁ、絶叫系はほとんど...」
「じゃあほとんど乗れないじゃん!」
ムスッとしたなゆたの表情。
さすがに申し訳ない。
自分から遊園地に行こうなんて言っておいて、入園早々このざまだ。
「ごめんな...」
「別に謝らなくていいわ。翔の体調の方が大事だから」
急にツンデレを発動してきやがった。
「しばらくここで休んでて」
「あぁ、ありがとう」
俺がゆっくりと水を飲んでいる間、なゆたは行きかう人々を眺めていた。
「アベックや家族ばっかりね」
「そりゃ遊園地だからな」
アベックていつの言い回しだ。
「ねぇ...」
「ん?」
「私たちって、どう見えてるのかな...?」
「なんなんだよ急に」
「ほら、兄弟とかさ...、カップル...とか」
何を言い出すんだ急に。
あきらか様子がおかしいぞお前。
「そりゃ兄弟にでも見られてるんじゃないか?」
「そっか...」
「?」
「まぁ、そうだよね...へへ、」
「なんだよ急に...」
「お兄ちゃん!」
「ぶっ!!」
俺は飲みかけていた水を噴出した。
「おい、なんだよ急に!水噴出しちまったじゃねぇーか」
「冗談よ、何急に水噴出してるの?バカみたい、へへ...」
冗談でも急に「お兄ちゃん」なんて呼ぶな。
からかうように笑ってるなゆたの表情はどこか何かをごまかしているようにも何故か見えた。
「ねぇ、あの人たちはどんな関係だと思う?」
「え?」
なゆたの視線の先を追うとそこには女1人と男2人の男女3人組がいた。
まぁ、高校の友達同士か何かってとこだろ。
て、おいどこか見覚えがあるぞ。
「ここのお化け屋敷!ほんとに出るんだって!来てみたかたんだー!」
「おいおい、そんなの嘘に決まってんだろ」
「なずなさん。是非お供します」
まずい。
まずいまずいまずい。
実にまずい。
今まさに俺の視界に飛び込んできたのは竜ケ崎、なずな、トオルの三人であった。
なぜお前らがこんなところに!オカルト研究でもしてるんじゃなかったのか!
どこかの山の山頂でひたすらUFO呼んだり、どこかの茂みでひたすらツチノコ探したり、大量のスプーン買い込んで一日中スプーン曲げに時間を費やしたり、オカルト的な活動ってそーゆーことじゃないのか!
やばい、今すぐにでも逃げないと。
そう思った瞬間であった。
「あ」
「あ」
互いに目があった。
The End。
「かけるーーーーーん!!」
即死。
なずながこっちへ近寄ってくる。
「かけるんじゃーん!なにしてるのこんなところでー!!」
「お前らこそ...何してんだこんなところで...」
「なにってオカルト研究会の活動だよー!ここの遊園地ってけっこー歴史が古いでしょ?実はネットで色んな噂が出回ってて、オカルトマニアの隠れ宝庫なの!」
「そ、そうなんだ...」
「うん!あれ、その子は...?」
やばい。
白鳥のみならず、なずな達にもなゆたの存在を知られた。
「いや、こいつは...」
「妹さん?」
「え?」
焦っていたのがバカらしくなった。
「かけるんの妹さん?」
「そ、そうだよ。妹...。妹のなゆた」
「妹さん?そっかぁー!こんなかわいい妹さんいたんだー!用事って妹さんと遊園地に出かけることだったんだね!かけるん良いお兄ちゃんだね!」
万事休す。
そりゃそうだよな。普通に考えたらそうだ。
誰でも俺となゆたを見たらまず最初に浮かぶのは「兄弟」だろう。
そりゃ似てないけど、でも普通に考えて兄弟と考えるのが妥当だ。
幼女を誘拐して好き放題してるなんて考えが浮かぶのは白鳥レイナだけだ。
「そっかぁー、妹さんかぁー」
「そう、妹。俺たち兄弟なんだ」
一件落着。
と思われた次の瞬間、黙っていたなゆたが口を開いた。
「ちがう!」
へ?
「お、おいなゆた、何が違...」
「妹じゃない!」
「え」
勘弁してくれ。
「私はれっきとした座敷童よ!!!」
勘弁してください、ほんとに。
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