第13話「オカルト研究会」
金曜日。
そう。
憂鬱な月曜に始まり、誰もがこぞって身を削りながら目指すのがこの平日の最終日、すなわち「金曜日」なのだ。
そして明日は土曜日。
誰もが待ちに待った週末である。
俺はその土曜日に何故かなゆたと遊園地に行く約束をしてしまった。
正直冷静になってみるとなぜあんな約束をしたのかが分からない。
が、あまり後悔はない。
俺は学校に着いてからも授業そっちのけで、何時の電車に乗って何時に着いてどんな風に園内を回ってやろうなんてことを考えていた。
その時だった。
「助けてぇぇぇぇぇ~!!!」
お昼休みのことだった。
「ん?」
俺とトオルが弁当箱から顔を上げると意気消沈するなずなの顔がそこにあった。
「どうしたなずな」
「オカルト研究会...存続の危機...!」
「は?」
オカルト研究会とはなずなが密かに(一人で)勝手にやっている、世の中のあらゆるオカルトを研究し続ける(たぶん)研究会の事だ。
しかしながらそれが存続の危機とはいったいどーゆーことだろう。
「存続の危機ってお前が一人で勝手にやってるだけだろ?」
「いやぁーそれがですねぇー、我がオカルト研究会は校舎3階、一番北側の空き教室を拠点として密かに活動していましてねぇー」
そうだったのか。
たしかにあの辺には相当な用事がなければ近寄らないし、人にも気付かれないだろう。
それにしてもそんなところを拠点に活動していたとは。
「PCとかいろんな備品もそろってるしー、元々何に使っていたかは知らないけど当分はただの物置になっていたみたいでー、なかなか使い勝手が良いのですよー」
「お前もしかしてそれ」
「そうそれ!」
まだ何も言ってない。だいたい見当はつくけど。
「それが先生にバレちゃってー、正式なサークルと認められない限りはここを使うことは許さない!って言われちゃったのー!ひどくない!?」
いや100%教員の言うことが正しい。
「それは仕方ないな。さらばオカルト研究会」
トオルがハンバーグを頬張りながら言った。
「トオルんひどいー!かけるんは助けてくれるよね!?」
「いや、自業自得だろ...」
「うぅ~、二人してぇ~」
うなだれるなずなをスルーしてトオルはエビフライを頬張っている。
俺は疑問に思っていることをなずなに問いかけてみた。
「そもそも部室ってそんなに必要か?自分の家で勝手にやってればいいだろ」
「だってぇ~、親に知られるわけにはいかないもん」
あぁ、そういえばこう見えてなずなの親は厳格であると聞いたことがある。
スマホも高校に上がる際にやっと買ってもらえて今でも幾分か制限があるとか。
「活動にはあの部室、いや、研究所、いや、『ラボ』が必要なの~、だからさ、トオルん、かけるん、助けて?ね?」
急にぶりっこのポーズでウィンクをしてくるな。お前には似合わない。
ちょっとかわいいけど。
「助けてやりたい気持ちもあるけど、具体的に何か俺らにできることがあるの?」
急になずなの目が生気を取り戻した。
「そう!よくぞ聞いてくれた!それこそ今回の本題なのだよかけるん!」
「本題?」
トオルも首を傾げている。
「二人にはぁ~、是非ともぉ~」
是非とも?
トオルが卵焼きを口に運ぶのを一時停止している。
「オカルト研究会に入部していただきたいのです!!」
「へ?」
思わず声が漏れた。
トオルは卵焼きを口へ運んだ。
「5人!5人必要なんだって!今日の16:00までに5人揃えば正式なサークルとして認めてくれるって先生言ってた!ね、だからまずは二人!」
「いや、さすがにそれは...」
トオルが口の中で砕いた卵焼きを飲み込んだ。
「だって二人とも帰宅部でしょ?バイトすらしてないこと知ってるんだよ。それにトオルんなんて彼女もいないし暇でしょうがないでしょ?」
トオルが飲み込んだ卵焼きを戻しそうになった。
「う、うるせぇ!女が俺の魅力に気付いていないだけだ!」
「うわぁー、いかにも彼女できない人の発言ー」
「なんだと!」
犬も食わないケンカとはこのことか。
彼女なら俺もいないんだけどな。
「トオルん、彼女ができる人間とできない人間の違い分かる!?」
「なんだよ!」
「サークルに入ってるか入っていないか、だよ」
「そう...なのか...?」
そんなわけないだろ。
「そうだよ、それに今や女子たちの間では空前のオカルトブーム。女の子たちはけっこうそーゆー話に興味あるの。UFOとかUMAとか詳しいとモテるよ...?」
「まじか...知らなかった...。オカルトか...」
真剣に考えるな。真に受けるな。トオルよ。
女子の間でUFOとかUMAとか流行るわけないだろう。
それに本当にブームならもっと自然に部員集まるだろ。よく考えろ。
「分かった。俺、入るよ。オカルト研究会」
おい。
「ほんとにー?ありがとー、トオルんー!いっちょ上がりー!」
いっちょ上がりーってはっきり言ったぞ今こいつ。
おい、トオルよ考え直すんだ。
「おいおいトオル、お前オカルトで女子にモテるなんて本気で思ってるのか」
「オカルトかぁ...」
ダメだ。聞いてねぇ。
すると。
「なずなさん、僕も入部します。いや、させてください!」
どこからともなく現れて立候補したのは竜ケ崎剣士その人であった。
竜ケ崎といえば転校早々クラス全員の前でなずなに振られた男だ。
メンタル強いなお前。
「お、竜ケ崎くん!君みたいにやる気のある若者は大歓迎だよー、にちょう上がりー♪」
にちょう上がり言ったぞ。
大丈夫なのか竜ケ崎。
「そして...、なずなさん。僕と付き合ってください!」
動機が不純だぞ竜ケ崎。
二度目の告白とはメンタル強いなお前。
「それはダメー」
「うっ!」
地に膝をつく竜ケ崎。
なずな、もうやめるんだ。とっくに竜ケ崎のライフは0だ。
さすがに二回振られるのはキツイ。
「よし!これで二名確保!かけるん、入ってくれるよね...?」
「いや、俺は...」
「ね...?お願い...、名前を置いてくれるだけでいいから...?」
やめろ。また急にぶりっこモードに入るんじゃない。
容姿は悪くないんだから普通にかわいいと思ってしまう。
「わ、分かったよ...」
「やったー!三名確保!」
不覚。
なずなのぶりっこ懇願作戦にやられるとは思わなかった。
「あと一人だね!楽勝!」
オカルト研究会の部員になってしまった。
「あ、じゃあ早速放課後みんなで『ラボ』に集合ね!入部届もそこで書いてもらうから!」
そう言い残すとなずなはそそくさと残る一人の部員を探しにどこかへいってしまった。
正直めんどくさい事になってしまったと思うものの、名前を置いとくだけでよさそうだしまぁ、良しとしておこう。
「オカルトかぁ...」
トオルはまだうわの空だ。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
放課後になった。
俺とトオルと竜ケ崎はなずなに言われた通り3階の一番北にある空き部屋、なずないわく通称『ラボ』に集合した。
中に入ると長細いテーブルとそれを囲うように丸形の椅子が6つ。
その奥にはいかにもお年を召してそうなPCが横たわっている。
本棚に目をやると、いかにもなずなが全て用意したであろう「衝撃!世界のUFO100選!」や、「ノストラダムスの予言は本当だった!」や、「日本の妖怪大特集!」なんていういかにも胡散臭いオカルト本たちが並んでいた。
なずなが手入れしたのか、この前までほぼほぼ使われずに物置になっていたとは思えない立派な『ラボ』だった。
が。
当の本人の姿がない。
時刻は15:50をまわっている。あと10分で入部届を出さなければタイムアウトだ。
「あいつ俺たちを呼んどいてどこいったんだ?」
「もしかしてまだ最後の一人探してたりしてな」
トオルが冗談交じりにそう言うと、
「お!、お前たちが部員か。そうかそうか」
あざ笑うように笑い声を交えて俺たちの背後から登場したのは仙田紀夫(52歳独身)であった。俺たちの担任だ。
「先生、いらしていたんですね」
竜ケ崎が言う。
「あぁ、藤堂に今日の16:00までにここで5人分の入部届を出せと言ったんだがな。まだあいつはこんのか」
「えぇ、まだいません」
どーゆーことだろう。
このままではほんとにオカルト研究会(のラボ)が崩壊するぞなずな。
いいのかなずな。一体どこへ。
「まぁ、ここでゆっくりしようや」
仙田紀夫がそう言うと俺たちはテーブルを囲うように座った。
するとその時、
「遅れてすいません~」
なずなの声だ。
しかしながら『ラボ』に踏み込んできたなずなの顔は完全に曇っていた。
「おい、なずな。もしかして...」
「他のクラスにもみんなに声をかけたの...。でもダメだった...」
オカルト研究会、終了のお知らせ。
残念だったな、なずな。
もうオカルトなんかに青春を費やすのはやめにするんだ。
「そんな...藤堂さんがこんなに頑張っているのに!」
竜ケ崎が憤る。
「お前、ほんとに全員に声かけたのか?」
トオルが訊く。
「うん、クラスのみんなにも、他のクラスのみんなにも...」
「そうか。それは頑張ったな」
たしかにどこからともなくやってきてオカルト研究しようなんて玄関先で宗教の勧誘を受けてるようなもんだし簡単ではないよな。
ということでなずな、お疲れさまでした。
時刻は15:55。
THE ENDだ。
「ただ、一人を除いて...」
「ん?ただ一人?」
「うん」
「一人だけ声をかけなかった奴がいるってこと?」
「うん...」
人見知りしないことで有名ななずなが唯一声をかけなかった人物?
はて、一体誰のことだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます