第11話「ロリコンとストーカー」
まさかの2問連続で大正解だ白鳥レイナ。
俺はまさしく「幼女」と暮らしを共にしている。
それも座敷わらしという名の幼女と。
どっちにしろお前の言っていた<よからぬもの>だ。
だがなぜそれを知っているのだ白鳥レイナ。
そして断じて言う。
俺は<ロリコン>ではない。
「は...?」
「ごめんなさい、人の趣味に踏み入るのはプライバシーの侵害よね。ごめんなさい、今のは聞かなかったことに...」
「いやいや、ちょっと待って!てかどーゆーこと?俺が幼女と同棲してるって...」
「ごめんなさい、わたし、嘘ついてたの。これは言わないつもりだったけど、実は昨日あなたに手紙を渡したあと、やっぱりあなたの住んでる家が気になってあなたのあとをこっそり付けていったの...。そしたら、結果的にやはりあなたの家は霊道上に位置していたわ...。それで、それだけ確認できたからもう帰ろうとしたのだけれど、そしたらあなたの部屋のベランダから幼女が出てくるのが見えたから....。その、ごめんなさい...」
思考が、
停止した。
そうだ。思えば確かにそうだった。
昨日、俺はなゆたに特製オムライスを振舞った後、ベランダの洗濯物を取り込むようにあいつにお願いした。
まさかその瞬間を同級生に見られているとは思わなかった。完全な誤算だ。
「いやいやいや、てか俺の跡をつけたってそれ軽くストーカーじゃん!」
「社会にはそんな言葉もあったわね。しかし断じて私はストーカーではないわ」
「いや、それ完全にストーカー行為だって!」
「ストーカーストーカーって失礼ね...、あなたが心配でやったまでのことよ。それにあなたのようなロリコンに言われたくないわ!」
「ロリコンじゃねぇって!!」
「じゃあ、あの幼女はどーゆーことよ」
「う....」
「ほら、言い訳できないじゃない」
この流れはマズイ。実にマズイ。
「い、...妹だよ!」
咄嗟に口をついて出たのはそんな苦し紛れの言い訳だけだった。
「妹...さん?」
「そう...妹。妹のなゆた」
大嘘である。
「...そう、そうだったの。妹さんだったのね。ごめんなさい、私の勘違いだったのね。謝るわ。わたしはてっきりあなたが幼女に趣味の和服を着せたうえで監禁して、私利私欲の限りを尽くしているものだとばかり...」
「おいおい、お前の中での俺の人間性どうなってんだよ...」
「ほら、ああいった家に住んでいると気が狂って人格まで破綻する人も少なくないから...。あなたがまだ正常な人間だったみたいで安心したわ」
勝手に人を犯罪者にするな白鳥レイナよ。
しかしながら「幼女と同棲している」などと言われたときは本当に焦った。
初めて死を覚悟した瞬間かもしれん。
「とにかくそーゆーことだから。俺はロリコンでも正常な判断ができなくなった異常者でもない。いたって健全な学生だよ」
「ええ。分かったわ。変な勘違いをしてしまってごめんなさい...。じゃあ何も変なことはしていないって事でいいのね?」
「当然だ。妹だからな」
「じゃあ...、実の妹であるのをいいことに<幼女>と毎晩一緒にお風呂に入って性的な興奮を覚えたりもしていないってことでいいのね...?」
「だからしてねぇって!俺は妹と一緒にお風呂に入って興奮を覚えるような変態じぇねぇ!それと<幼女>という言葉をイチイチ強調するな!」
「そう...。なら安心したわ...」
どれだけ俺を変態扱いしたいんだコイツは。
というかむしろすぐにそんな妄想を働かせるお前の頭の中の方が心配だ。
しかしながら...。
とりあえずは一件落着。本当にとりあえずではあるが。
そして。
まさかあの白鳥レイナが俺のあとをつけて家までストーキングしに来ていたなんて思いもしなかった。
そしてそして。
なゆたと同棲しているという事実がとうとう他人にバレてしまった。
おそらく白鳥レイナは口が堅いだろうし、白鳥レイナ自身の秘密のこともあるので彼女が他人になゆたと同棲していることを拡散するようなことはないと思うが、それでもかなりの一大事である。
唯一、なゆたの正体がバレていないということだけが不幸中の幸いだ...。
俺はなんだかとっても疲れた気分になりながら、白鳥レイナと階段を下りていき、駐輪場まで歩いた。
そして今回の事はお互い絶対に他言無用だという固い約束を交わして、俺と白鳥レイナは別々の帰路を辿った。
俺はたまに後ろを振り返って誰も来ていないことを何回か確認しながらやっとの思いで<格安ボロアパート>に着いた。
「なんて日だ...」
深いため息と共にそんな言葉が自然に漏れた。
普通の人間の一か月分くらいの神経をすり減らした自信がある。
あやうくロリコンの犯罪者にされるところだった。
いや、待てよ?
そもそも白鳥レイナが確かな霊能力を持っているのは本当だ。
だとするならばいっそあらいざらい本当の事を全て話して相談相手になってもらうことはできなかったのだろうか?
しばらく考えた後、
「まぁ、いいか」
やっぱりめんどくさい事になりそうだからいいやという結論に至った俺がいた。
そうしてまた一つ溜息をついたあと、俺はいつものように自分の家の扉を開けた。
「ただいまぁー、...って、ん?」
家に入ってまず最初に目に飛び込んできたのは、カーテンの前で体育座りをしたままうずくまっているなゆたの姿だった。
つまるところそれは、ごく一般的(?)な「座敷わらしスタイル」だった。
人間を怖がらせるためにまず向こうの世界で教わる基礎的な姿勢の一つなんだろうか。
いずれにせよ、てっきりテレビでも見ているものだと思っていたし一体どーゆー風の吹き回しだろう。
「おいおい、いまさらそんな座敷わらし感出さなくてもいいんだぞ」
俺は溜息混じりにそう言うと、絶賛座敷わらしスタイルを披露中のなゆたに少しずつ近づいていった。
「おい、なゆた。聞いてんのか?何かあったか?腹でも減ったか?」
一切返事が返ってこない。
すると。
<ドン!>
「え?」
お腹のあたりに急な衝撃と重み。
一瞬意味が分からなかった。
それもそのはず。
なんと、なゆたはいきなり俺の方へと目にも止まらぬ速さで走ってきて、ラグビー部員がタックルをするかのような要領で急に俺に抱き着いてきたのだ。
そしてそのまま俺の腹のあたりにずっと顔をうずめて黙り込んでしまった。
とにかく何が何だか全く分からないし、もし今この状況を白鳥レイナに見られたら今度こそどんな言い訳も通用しないだろう。もはや諦めて「ロリコン」を公言しながら余生を生きるしかない。
「あのー、なゆたさん...?何かありました?」
焦りすぎて謎の敬語が出てしまった。
すると、なゆたは俺に顔をうずめたまま口を開いた。
「お願いがあるの...」
「お願い?」
ヘソのあたりに喋りかけるのはやめろ。
「一緒に...」
「え...?」
なゆたがうずめていた顔をゆっくりと上げて、上目遣いで俺の方を見てきた。
よく見たら目が少し潤んでいる。
「あのね...。一緒に...、お風呂に...入って欲しいの...」
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