第10話「屋上」

放課後になった。

同級生である谷山トオルからの一緒にナンパをしにいこうという誘いをわざわざ断り、俺は期待と不安を1:9の割合でかき混ぜながら屋上へと階段を一段ずつ上った。

もちろん、白鳥レイナとの確約が無かったにしてもトオルとナンパなどという無謀な行為は一生しにいくつもりはなかったが。



そして一段、また一段と上るにつれて不安の割合の方が10に近くなっていくのを脳内で感じ取りながら、俺は屋上へ出る扉の前へ着いた。


するとそこには既に扉の前に白鳥レイナの姿があるではないか。


「わざわざ扉の前で待ってくれなくてもいいのに」


「わざわざあなたを待って一緒に屋上に入ろうとしたわけじゃないわ」


「え?」


そういって白鳥レイナは扉のドアノブに手をかけた。


「鍵がかかってるの。これ」


「え...?あー、...そうなんだ」


「屋上って案外簡単に入れると思っていたけどそうでもないのね。青春漫画のワンシーンみたいで期待していたのに...」


おいおい、まさか学年イチの才色兼備な学級委員が俺と全く同じこと考えてたのかよ。しかも声にまで出してしまっているぞ白鳥レイナ。キャラ崩壊とかの心配はないのか白鳥レイナ。


「そーゆーの憧れてたの?」


内心、俺も憧れてたとは言えない。


「別に憧れていたわけではないわ。でもよくあるじゃない、そーゆーシチュエーション。一度くらいはやってみたかっただけよ...」


残念だが人はそれを「憧れ」と呼ぶのだ白鳥レイナ。

遠くを見るような目で無駄に切なさを演出するな。


「そんなことはどうでもいいの。手紙、読んでくれたわよね?」


そんなことってそっちが言い出したんだろ。


「もちろん読んだよ。俺の秘密を知ってるって...。どういうこと?」


「そう。私はあなたの秘密を知っている。あなた自身は気付いていないかもしれないけどね」


俺自身は気付いていない?一体どういうことなんだ。

とにかく彼女の冷たい視線だけが突き刺さる。


「この話をする為にはまず、私の秘密について教える必要があるわね」


「白鳥さんの...秘密?」


「そう。私の秘密」



俺は息をのんだ。



「つまりは...。霊能力者なの。私」


「霊能力.......者.....?」


「そうよ。私の家系は皆、代々霊能力を持って生まれてくるの。そして私はその末裔」


「そうなのか...」


なるほど。話が早い。

本来だったら信じないけど事情が事情だから今ではこんなことも簡単に信じれるようになってしまった。


「常にいたるところから霊圧を感じ取ってしまう体質なの。そしてあなたからはとてもよくないものを感じる」



厄介な人間とクラスメイトになってしまったもんだ。



「そうだったのか...。俺自身に何か問題があるのか?」


「いいえ、あなたから感じられるものはあなた自身が持って生まれたものではないわ。だから問題はあなたを取り巻く環境。基本的に学校やそこにいる人間からは感じ取れないからどうやらあなたの住んでいる家に問題があるみたいね」


「俺の家...か」


大正解だよ白鳥レイナ。

今まさに俺の家にはとんでもない厄介者がいる。

そしてたぶん今頃その厄介者は一人でのんきに連ドラの再放送でも見てる。


「ええ。でも良くあるパターンなの。引っ越しをした人間がその日を境によくない霊圧を帯びることはあるわ。あなた格安のボロアパートに住んでいるでしょう?」


「そんな事まで分かるのか...。あぁ、確かに住んでるよ。格安のボロアパートに」


すごいぞ白鳥レイナ。こいつの霊能力とやらは本当の本当みたいだ。

確かに貰った手紙にも確信をもって「アパート」と書かれていた。


「やっぱりね。それが原因よ。霊道上って言ってね。その上に立ってる家なんかは<よからぬもの>たちの通り道になってしまっているの。言い方を変えれば<あの世>と<この世>の出入り口みたいなもの。きっとあなたの家もその一つね。とにかく早く出た方がいいわ。既に<よからぬもの>に憑かれていてもおかしくないもの」


「分かったよ。ありがとう、白鳥さん」


「レイナでいいわ」


「じゃあ、白鳥で」


急に下の名前を呼ばせようとしてくる白鳥には驚いたが、いずれにせよわざわざ忠告をしてくれたことには感謝だ。



しかし残念なことにもう手遅れである。



俺は既にずいぶんな<厄介者>に憑かれてしまっている。


あいつはきっと何らかの霊力に引き寄せられる様な形であのアパートに現れた<異界の存在>で、一緒に暮らすことになった俺はよくないオーラとやらを気付かない内に貰い受けてしまっていたのだろう。


いずれにせよ、白鳥はまだなゆたの存在には気付いていないらしい。


それが分かっただけでも俺はそっと胸をなでおろした。




「あぁ、それと」


「何?」


「いえ...何でもないわ」


「なんだよ、気になるだろ」


「やめておくわ」


「なんかそーゆーの気持ち悪いじゃん。言ってくれよ」


「イヤよ...」


「言ってくれって」


「本当にいいの?」


「いいよ」


「じゃあ...、あなたって...」


「うん」








「あなたって...その...つまり...、小さな女の子が趣味なの?」




「.................(はい?)」









「つまりは...、その....、あなたって<ロリータコンプレックス>なの?」



「..........?」











「...あなた、幼女と同棲しているわよね」





「....................................................................」

















はい?


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