第8話「オムライス」
翔(かける)特製オムライスなるものがある。
鶏肉多めのチーズ入りチキンライスを卵の生地で包み、市販のデミグラスソースをこれでもかと上からかけて完成。
我ながら、なかなか美味である自信がある。
「これは美味しい...、名付けて翔(かける)特製オムライスね...」
そのまんまやん、というツッコミはあとにして和風幼女(年齢300歳)のお墨付きをもらった。
ここに翔(かける)特製オムライスが正式に誕生した。
それより、俺はその微かな変化を見逃さなかった。
「お前、初めて俺の名前呼んだな」
「・・・」
なぜか徐々に朱色に染まっていく顔。写真を見てどこが変化してきてるか当てる脳トレゲームくらい徐々にだけど。
「いや、呼んでないし。オムライスの固有名詞言っただけだし」
なんだその苦し紛れな言い訳と意味の分からない意地は。
ツンデレの名のもとに意地を張りながら、なゆたはオムライスを口いっぱいに頬張るのだった。
それにしても立派な「なゆた」という名前を付けてやったんだから俺の名前も呼んでくれてはいいのではないだろうか。
「なぁ、一回俺の名前呼んでみてよ」
「やだ」
「なんでだよ、なゆた」
「気安く名前で呼ばないで」
名付け親だぞ俺は。付けさせたのお前だし。
ここは一つからかい甲斐があるかもしれない。
「なぁ、俺らこれからしばらく生活共にする仲だろ?名前くらい気軽に呼び合えるようにしといたほうがいいと俺は思うんだが...」
「きもい」
「うっ」
反抗期の娘を持つ親御さんの気持ちがわかった気がしていた。
「なぁー、頼むって。翔(かける)って呼んでくれよ」
「いやだって...!」
完熟トマトくらい真っ赤な顔面。
分かりやすいくらいツンデレなこいつのこーゆー反応は、正直見ていて面白い。
結局名前呼ばれなかったけどね。
夕飯を食べ終えた後、なゆたにベランダの洗濯物を取り込むようにお願いして俺は布団を敷き始めた。
-就寝。
育ち盛りか更年期か知らないけど、こいつはとにかく寝るのが早い。
布団に入って5秒もしないうちにはこいつの寝顔は拝めるのだ。
「おかわり...」
ふと聞こえる寝言。まだ翔(かける)特製オムライス食ってんのかこいつ。
「はぁ...」
溜息と同時に俺は目を閉じた。
(今日もいろいろあったなぁ...)
(...ん?)
何か忘れてはいないだろうか。
So、「love letter」だ。
(は!)
俺は覚醒した。なんてものを忘れていたのだろう。
今日一番の楽しみをカバンの奥に潜めたままではないか。
俺はなゆたに気付かれないように、しかしながら着実にカバンへと手を伸ばし、奥にある「love letter」を引っ張り出した。
かわいらしいハートのシールで封がされている。なんて粋な計らいだろう。
俺はゆっくりとハートのシールを傷つけないように封を開け、そっと中身の手紙を取り出した。
これで俺のバラ色の学生生活が約束された。
おこちゃまなどにかまっているほど俺の学生生活は暇じゃないのだ。
さらば灰色の日々。
俺はゆっくりと手紙の内容に目を向けた。
すると。
「...ん?」
中身を見て、俺の思考が完全停止した。
以下全文。
「拝啓、天田翔殿。
あなたの秘密を知っています。
今すぐその家を出なければ、あなたはとてつもない不幸に見舞われます。
白鳥レイナ」
「..............................................」
控えめに言って俺の知っている「love letter」ではないし、内容からいってもはや「Kyohakujo」だった。
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