第5話「朝。」
朝だ。
カーテンなんか関係なく差し込んでくる日差しに目を覚ますと、俺は横目で時計を見た。
アラームが鳴るまでにはまだ数分ある。
そのまま俺は時計とは反対方向に寝返りをうった。
すると。
そこには小さな女の子の顔があった。
それもすぐ近くに。
鼻先と鼻先がぶつかりそうなほどの距離。
寝息なんて微かに俺にかかっている。
おかしい。こいつは確かに隣の布団で寝ていたはず。
ふと向こう側に目をやると、そこには誰もいない毛布のめくれ上がった布団が見えていた。
なるほど。
なんという神がかった寝相の悪さだろう。
自分の布団を脱して俺の布団に潜り込み、そのまますぐ隣でぐっすりと寝やがったのか。
つまり俺は今、女の子と共に一緒の布団に入って寝ているわけだ。
見た目なんかもちろん小学生にしか見えないし、今まさにここに警察が来てこの状況を見たら間違いなく俺はお縄だろう。
悪いが俺は先に起きる。学校へ行かねばならんのだ…!
俺は布団から出ようとした。
しかし。
僅かながら何か抑止力が働いている。
そう。
俺の服の袖の部分を小さな手が掴んでいたのだ。
「おいおい…」
なかなかの「甘えん坊」というやつだ。
まぁ、妖怪の類とはいえほとんど小学生のようなものだからそれも仕方がないのかも知れない。
「悪いな。俺は学校へ行くんだ」
そういって俺が腕を引こうとすると。
「お兄ちゃん…」
消え入りそうな声だった。
(お兄ちゃん…?)
もちろん俺はお前のお兄ちゃんになどなった覚えはない。
寝言とはいえ、つくずくこいつの典型的なまでのツンデレぶりには驚かされる。
しかし実際のところどうだろう。
実はこいつには本当に兄がいるんじゃないだろうか?
こいつの本来住んでいる世界のことはよく知らないが、よもやこいつは今まさに夢の中でその「お兄ちゃん」とやらにしがみついているのではないだろうか。
そう思うとなんだか少し申し訳ないような気もしてきた。
「まぁ…いいか…」
アラームが鳴るまではもう少しある。俺は再び寝床につくことにした。
布団の中からじっと天井だけを見つめ、そうしたまま昨日の一連の騒動を思い出していた。
ミルクプリンの盗み食いに始まり、突然の同居宣言、段ボール住居の作成、そしてそれを破壊されてからの一悶着。
思えば一夜でいろいろなことが起きた。
そして…。
「そういや結局、浮かばなかったな…」
そう呟くと、俺はもう一度隣で寝ている小さな少女の方を見た。
「名前…、どうするかな」
俺はまだ名前を考えていた。
彼女はまだ静かに寝息を立てている。
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