第4話「夜中に起きたらツンデレな座敷わらしが俺の冷蔵庫をあさってた話する?」
そんなの聞いてない。新手の詐欺だろうか。
いくらなんでも、こんなちんちくりんを相手に1年も生活なんて出来るわけがない。
やっとの思いでスタートした夢の一人暮らしだ。
厚かましいにもほどがある。
「いやいや、冗談でしょ?」
「何が冗談よ。見習い座敷わらしは訪れた家に1年間は居座らないといけないって決まりなの。座敷わらし界じゃ常識よ?」
どこぞの常識だよ。おまけにそんな界隈も初めて聞いた。
本当にあったんだな座敷わらし業界。
俺はゆっくりと玄関を指し、皮肉な笑顔で言った。
「出てけ」
「は?」
「出てけって」
「ちょっと。その言い方は無いんじゃない?それに口の利き方に気を付けなさい?私はこれでも300年は生きてるのよ?あなたの大先輩よ、敬意を表しなさい」
なるほど。さすがオカルト的存在、見た目は小学生でも俺の何十倍も生きていらっしゃるらしい。
じゃあ、なおさら見習いってなんだ。
もうわけわからん。
「いいから出てけよ!!」
「イヤだ!!ここに居座るもん!!」
真夜中の攻防戦。
ご近所迷惑になってなければいいが。
か弱い幼女の腕を引っ張って必死に外まで連れ出そうとする俺。
必死に悶えながらそれに抗う幼女。
いまここに警察が来たらきっと俺の方が一瞬でお縄である。
-1時間経過-
「ハァ…ハァ…、お前…しつこいぞ…」
「ハァ…ハァ…、あんただって…」
お互い肩で息をする状態。完全に疲れ切っていた。
さすがの俺もこんなことをいつまでも繰り返すわけにはいかず、ついに折れてしまった。
「ハァ…ハァ…、分かった…、とりあえず…ここに置いてやる…」
仕方がない。
それに、多少の我慢さえすればこいつは幸せを振りまいてくれるのだ。
そこまで悪い話ではない。
「ハァ…ハァ…、その変わり、余計はことは何もするなよな…。ハァ…ハァ…。分かったか…?」
「ハァ…ハァ…、分かってるって…、だから…、最初から何もしないって言ってるじゃない…、ハァ…ハァ…」
しばらく俺たちは床に寝転ぶ形になった。
そうして10分、20分と時間が過ぎていき、ようやく息も整ったころ。
俺は起き上がって台所へ行き、折りたたまれて潰されていた段ボールをいくつか持ってきて、ガムテープで補修しながら簡易的な段ボールの犬小屋のような物を作り上げた。
それを見て眉毛を釣り上げた座敷わらし見習いが言う。
「なんなの…、それ…?」
「これが今日からお前の部屋だ」
「は?意味わかんない」
なんだその言い方。反抗期の一人娘か。
どこまでも憎たらしい奴でしかない。
「俺の家に居座るっていうならここで生活しろ。そしてここから一歩も動くな。何も余計なことはするなよ」
刹那。
バコォォォォン!ドォォォォン!バキィィィィ!
俺の力作、段ボールハウスが一瞬にして座敷わらしの殴る蹴るの暴行によって破壊されていく。
「何すんだよ!俺がせっかく作った段ボールハウス!」
「こんなもんに住めるわけないでしょ!」
なおも座敷わらしは馬乗りになって追加攻撃を加えながら段ボールハウスを破壊していく。
「こんなもん無くても何もしないって言ってるじゃん!」
「信用できねぇから言ってんだよ!」
再び始まる口論。
こんなことでほんとに一年など我慢できるのだろうか。
やはりこいつを外の通りに放り出して、「飼い主募集」と書かれた段ボールにでも入れておいた方が良いのではないか。
散々な口喧嘩の末、俺は仕方なくもう一つ押し入れにしまってあった布団一式を取り出してその場に敷いた。
「おとなしく寝ろよ。分かったな」
「はーい!」
先ほどまでの喧噪はどこへやら。まるで小学生のように(見た目は小学生にしか見えないのだが)新しく敷かれた自分の布団の上でそいつは楽しそうにはしゃぎ始めた。
俺はまた何か喝を入れてやろうとしたが、あまりに嬉しそうな表情と無邪気に飛び跳ねているその様子に、喉元まで上がって来ていた言葉をそのまま飲み込んだ。
こうして見ると本当にただはしゃいでいる小学生だ。
一人っ子として育った俺には、それが生まれて初めて出来た妹のようにも感じられた。
「おいおい、お前はしゃぎすぎだろ…。修学旅行じゃあるまいし…」
俺がそう言うと、
「あ」
急に何か思い立ったように動きが止まった。
「ん?」
「そ、そのさぁ…。お前…。て言うの…、やめてくれない…?」
様子が変だ。急にどうした。
「え?」
奴は明らかに今までとは違う態度で、毛布を掴んだまま俺に少しだけ背を向けて小さな声で言った。
「だ、だからぁ…、そのお前っていうの…やめてくれない?仮にもこれから暫く二人で暮らしてくわけだし…」
おーっとこれは…。
「じゃあどうしろと…」
すると、恥ずかしそうに彼女は毛布から顔を少しだけのぞかせながらこっちを向いた。
顔はすでに赤らんでいるのが分かる。
「な…、名前とか…、付けて欲しいなぁ…、なんてね…、へへ…」
そう言いながら照れ笑いを隠すように、彼女は少しだけのぞかせていた顔も全部毛布に覆い隠してしまった。
そしてまたほんの少しだけ顔をこっちにのぞかせ、
「ダメ…かな…?」
と、頬を赤くして首を少し捻ってみせた。
ヤバイ。
まさかとは思っていたがこいつ…。
ツンデレだ!!
かなりのツンデレだ!!!!!!
ツンデレ座敷わらしだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
こうして俺とツンデレな座敷わらしとの奇妙なドタバタ共同生活は幕を開けたのでしたとさ。
たぶん。
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