第3話「座敷わらしよ!」
こいつ開き直りやった。
もちろん現世において、お腹が空いていたからといって人の家に勝手に上がり込んで超お徳用デカ盛りミルクプリンを食べて良いなんて決まりはどこにもない。
お腹空いてたんだもん。で通るほど人間界は甘くないことをこのガキに教えてやりたい。
と、それより。
まず根本的なことについて俺は質問をすることにした。
「ていうか…。君、一体何者なの…?」
「なにって…、座敷わらしよ!」
だろうね。
なるほど、本人の口から出てしまっては致し方ない。こいつは確かに正真正銘、座敷わらしのようだ。
たぶん。
そして何故か腕を組んだ状態で得意げにドヤ顔でこちらを見ている。
俺はいつの間にか誘導尋問にでも引っかかったのだろうか、その質問待ってましたと言わんばかりの満面のドヤ顔だ。
こいつにとって。否。
座敷わらし業界においておそらく自分たちが座敷わらしであるということは相当なステータスなのだろう。
たぶん。
「座敷わらしって…、あの座敷わらし…?」
「そう、あの座敷わらしよ…!」
相変わらずのドヤ顔。
俺は生まれてこの方ここまでのドヤ顔というものを見たことがない。いや、むしろこの先もここまでのドヤ顔を見る機会はないだろう。誓ってもいい。
凛々しく仁王立ちを決め込んだまま、「フン」と鼻を鳴らすどころか、「フン」とまで口で言ってみせた。
俺は教師に質問をする生徒の要領で右手をあげた。
「はい、座敷わらしさん」
「なんだね、天田くん」
この際、なんで俺の名前を知っているのかはどうでもいい。
「座敷わらしっていわゆる、その家にイタズラやら何やらをしでかして幸福をもたらすっていうアレですかよね?」
「ん~、まぁニュアンス的には合ってるんだけどぉ…」
座敷わらしはどこか納得のいかないような、腑に落ちないような、歯がゆい面持ちで考え込んでいた。
「やめてほしいのよねぇ…。そういう偏った捉え方」
へ?
「確かに訪れた家に幸福をもたらすのが私たち座敷わらしなんだけどぉ…。そーゆーイタズラじみたことはしないわ。そんな低俗なことするのはお子ちゃまくらいよ。そーゆーのと一緒にしないでほしいのよねぇー、ほんとに…。」
なるほど。
人の家に勝手に上がり込んで冷蔵庫の奥で息を潜めていたミルクプリンを食べるのはイタズラに含まれないという理屈らしい。
だが確かにその理屈も一理ある。こいつがやったそれはもはやイタズラではなく、ただの「犯罪」でしかないからだ。
俺はまさしく、明日も朝から学校だというのにこんな夜中に小さな現行犯と対峙しているのだ。
とは言ったものの。
こいつがいわゆる「座敷わらし」としてこの家に幸せを振りまいてくれるのなら、それはあまり悪い話ではない。
俺だって半端者なりにも幸せは欲しい。
ところで。
「それでいったいどーゆー理屈で俺を幸せにするんだ?ただここにいるだけ?」
「んー、それが難しいんだけど…。私たちは、自分たちでも気づかないくらいの小さな粒子を常に体から無意識に発してるらしくて、それが人間界の空気に触れるとおのずとそこに幸せをもたらすようにしているらしいの。」
なるほど。
急に科学的。しかしながらちゃんとした根拠があったんだな。
いわばこいつは幸せの芳香剤。
性格にやや難ありだが、一家に一台是非とも欲しい代物ではないだろうか。
「詳しいことは私にも分かんない。まだ見習いだもの」
「へぇ…見習い…」
見習いってなんだ。座敷わらしにも階級みたいなものがあるのか。それこそ座敷わらし何級、または何段、といったように。
ともすればきっと座敷わらし業界は年功序列の縦社会に違いない。
頑張れ座敷わらし。
「てことで。これから1年間よろしくね」
「は…?」
俺は耳を疑った。
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