第4話
そして、時は少し過ぎ、オウルは王都内で勇者の情報を探していた。
「やはり、勇者は王都からまだ出発していないようだな」
およそ三か月、この王都で暮らしているらしい。流石に手頃なクエストを受けたりしてレベルは上げているらしいが、なぜ、旅に出ないのかオウルは疑問に感じていた。
「勇者? あぁ、一日一回城に向かうのを見るぜ。そういえば、今日はまだ見てねぇな」
オウルは食事処で情報を集めていると、店主から有益な情報を得た。
その情報を聞いたオウルの行動は早かった。すぐさま食事を済ませ、路地に入る。
そして自身に姿を消す魔法をかけ、城に潜入する。
「これがこの世界の城か……なかなかの広さだ」
そして、オウルが歩みを進めると玉座が見えてくる。そして、その玉座に座り、次々と舞い込む仕事をこなす王の姿を見たオウルは、彼に共感を覚えた。
そんな時だ、周りが若干ざわつき始める。先ほどまで王の周りでせわしなく動いていた家臣たちがピタリと動きを止めたのである。
(何が始まるんだ?)
オウルが疑問に思っていると、背後から光り輝く気配を感じたのである。
振り返ると、そこにはどこか神聖なオーラを身にまとった青年がいた。オウルは彼が勇者なのだと直感する。
(あれが、我のライバルとなる存在)
オウルの脳内では、すでにあの勇者との激闘に次ぐ激闘が繰り広げられていた。
(くふふ、いいの、いいの)
オウルは自然と頬が緩み、生きることがこんなにも楽しいのかと感じていた。
「勇者よ、旅に出てくれるか?」
オウルが妄想の旅に出ている間に、王と勇者の話は最後のほうになっていた。
「命に代え、必ずや魔王を倒して見せます」
「その言葉が聞きたかった、アレを」
王のその一言で、家臣が大きめの宝箱を持ってくる。
「待ってました」
勇者とオウルは、キラキラと目を輝かせていた。無論、オウルはライバルの誕生に目を輝かせているだけだ。
しかし、勇者は宝箱を開け、装飾が付いた剣を掲げると、ため息を吐き宝箱の中身を戻し玉座を後にしてしまった。
(なんなんだ?)
オウルは勇者の突然の奇天烈な行動に目を白黒させ驚いた。
「おい」
勇者が関わるとすぐさま行動に移すオウルは、勇者が居なくなった直後に玉座に座る王の前で魔法を解き、話しかけた。
「な、なんじゃ! お主は誰じゃ! どうやってここへ!」
「そんなことはどうでもいい、今の勇者の行動はなんだ」
オウルが突然現れた事によりざわつくが、オウルのその一言で今度は静まり返ってしまった。
「うぬ、アレを見ておったのか」
「あぁ」
「あれは、勇者曰くりせまら? なる儀式の様じゃ」
「リセマラ?」
そういえば、アタラズの町でも同じ言葉を聞いたなとオウルは思案に耽る。
「なんでも、一日一回宝箱から出てくる物が変わるそうじゃ」
「ほう、勇者の特殊能力か」
「そうじゃ、だが勇者は気に入るものが出るまで旅には出んと言ってな、もう三か月になるじゃろうか」
「そうなのか……これで失礼する」
「勇者の事は!」
「誰にも言わぬ」
オウルは、そう答えると城を後にした。
◆
オウルは魔王城に戻るや否や、自室に引きこもった。
「なぜだ、他の魔王の所の勇者は木の棒や銅の剣などでも旅に出るほどの勇敢なものだというのに、なぜこんなにも女々しいやつが勇者なのだ」
魔王は枕に顔をうずめると、今まで積み上げられてきた愚痴をぶつけていった。
「我はただ、勇敢な勇者と血沸き肉躍る戦いをしたいだけなのに……」
そしてオウルは小さくぽつりと呟いた。
「帰ろうかな」
そして、枕から顔を上げた。
「帰ろう、我の望む勇者は居ないのだ。そんな世界もう用がない」
行動に移すのが早いオウルはすぐさま身支度を整え、ある配下の魔物を呼び出した。
「お呼びでしょうか、魔王様」
「うむ、よく来てくれた」
呼び出した魔物は、この世界では一番強く、オウルが居なければコミュニティから魔王を任命されたであろうものであった。
「貴様にこの世界を任せる」
「!? どういうことですか!」
「我は、この世界に居られなくなったのだ」
オウルは、ただ落胆し元の世界に帰るだけなのだが、ハッキリ言うと、今まで築き上げた魔王像に傷が入るため真実は話さずに、配下に伝える。
「そんな!」
「貴様になら、この世界を任せられると思ってな……これは命令だ、貴様が我の後釜となりこの世界を魔物達のものにしてみせろ」
オウルのその言葉に配下は膝をつき頭を垂れた。
「魔王様のご命令しかと受け取りました」
「うむ、それではな」
オウルはその言葉を最後に世界ガルデーチャルから姿を消した。
勇者がリセマラなんてするんじゃねぇ! 因幡ノ真兎 @inabanoshinnusagi
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