17-4

 一見、誰もいないと思われた公園には先客がいた。小さすぎてすぐには気づかなかったが、さきほどから視線の中をなにかが動いていた。目を凝らすと小さな男の子だった。

 芝生の上を、なんだか危なげに小走りしている。じっと見ていた弥絵に気がついくと、一直線に駆け寄ってきた。

 「……ええと」

 じっ、と見上げられてしまった。

 辺りを見回す。親らしき人の姿は見えない。

 ひとりで遊んでいるのだろうか。それとも、迷子?

 小さい子と触れ合う機会があまりなかったので、どう接していいのかがよく判らない。

 弥絵はベンチから立ち上がってしゃがみ、男の子の顔を正面から見た。二歳くらいなのだろうか?

 「なんか……可愛いな」

 見れば見るほど、このまま連れて帰りたいくらいに愛らしい姿をしていた。薄くて柔らかそうな髪、つぶらな瞳、ぷっくりとした瑞々しい頬。昔の絵画に描かれている天使みたいだ。

 見覚えのある誰かに似ているような気もした。誰だっただろう。

 「お名前は?」

 弥絵が尋ねると、男の子は黙って首をかしげる。

 「お母さんはどこ行っちゃったの?」

 聞いても答えは返ってこなかった。まだ喋れないのかもしれない。弥絵はふうと息をつく。

 さて、どうしよう。

 歩いて二十分のところにある交番に連れていこうか。けれど、親が近辺を探している途中なら下手に移動させないほうがいいかもしれない。

 しばらく一緒に遊んで待っていようか。いい暇つぶしになりそうだ。

 男の子は頼りない足取りでちょこまかと歩いている。弥絵は一緒になって歩きながら、転びはしないかとはらはらしていた。どうにも目が離せない感じだ。

 十五分ほど経った頃だろうか。杉本が公園に姿を現した。見つかることは覚悟していたが、案の定追いつかれてしまった。

 追いかけてこなくてもいいのに。気まずくて目を逸らした。

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