7-4
兄妹が戻ったあとに交代で出かけていった宣子と綾だったが、たった十分ほどで綾だけが戻ってきた。
「一周したら気が済んだわ。小さくて可愛いお祭りね」
げんなりした顔の弥絵に気づく様子もなく、一志に向かって声をかける。
「わたし、売り子さん、まだできるわ。彼女のところに行ってきたら? 待ってるみたいよ」
一志は弥絵を見た。弥絵も一志を見て、頷いた。
「じゃあ、頼みます」
大股で去っていく一志の背中と弥絵の顔を、綾は見較べた。
「ふうん」
「なんですか、ふうんって……」
ちょっと気に障る。
「あなたたち、面白いわね」
「……どこが」
赤い唇が三日月の形を描く。そんなふうに笑われるとますます馬鹿にされたような気分になる。
むくれる弥絵の様子に構わず、綾は一方調子の会話を続けた。
「宣子さんって、綺麗ね。少し陰があるけど」
「陰?」
笑顔を絶やさない彼女から、暗い部分など感じたことはない。
「浴衣も似合ってたわ。若いっていいわねぇ。弥絵ちゃんは浴衣着ないの?」
「持ってないです」
「そうなの?」
もったいないわね、とつぶやく。なにがだろうか?
さっきから綾の言っていることは意味がよく判らない。
顎に細い指をあてて考え込む顔を見ていると苛々してくる。
タイミングよく客が来たので、応対にまわることにした。綾のことなんて構っていられない。
「ちょっと、電話をかけてくるわね」
客に花の包みを手渡した弥絵は、綾の声を聞いて振り返った。
黄色のワンピースが裾をひるがえし、人波の中へ消えてゆくところだった。
「なんなの……。ふらふらしすぎ、もう!」
思わず口に出してしまった。かたわらで花を見ていた女性客が顔を上げ、首をかしげる。
「あ、なんでもないです」
慌てて取り繕った。
それから四十五分ほど、綾は戻ってこなかった。
折しも混み合う時間帯、途切れることのない客をひとりで捌きながら、綾さんなんて嫌い、と弥絵は再認識した。
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