四話

 玄関を開けると笑顔で、少し息を切らした三奈が立っていた。ガツガツしすぎたか、困らせていないかと後悔したが、誘ってみてよかったと心底思う。

「いらっしゃい! お疲れ!」

「もう近かったので、直接来ちゃいました。すいません」

「いやいや、いいよ。ま、適当に座って、なんか作るから」

 そういうと三奈は上着を脱ぎ、昨日座ったのと同じ椅子にかけた。

「先輩、料理するんですか?」

 冷蔵庫を漁る俺に、脱いだ上着を整えながら質問をしてくる。

「意外かもしれないけどけっこうするよ、一人暮らしも長いし」

 待っていましたと言わんばかりの笑顔で俺は答える。キャベツともやし、細切れの豚肉を取り出し、油の引いたフライパンにぶちまけて炒め始め、五感を刺激する。まさしく男の料理感がすごくするけど、今ある食材でさっとできる野菜炒めをチョイスした。

「へー、そうなんですか。私より上手だったらどうしよう……」

 三奈は料理がそこまで得意ではないらしく少し心配げな表情を浮かべる。

「どうだろうね、野菜炒めだしそんなに差はでないと思うけど」

「あ、じゃあまた今度は私が作りますね!」

「おー、それは嬉しい。期待しとく」

 塩コショウ、醤油、水溶き片栗粉を加えさらに炒める、最後にごま油を少し加え味見をする。もっといい作り方はあるだろうが、普段の俺流野菜炒めはこんな感じだ。

「ありがとうございます~、運びますよ」

 皿によそう俺を見て三奈が寄ってくる。

「おう、ありがとう」

 すべて運び終え、準備は整った。野菜炒めに白いご飯だけど、誰かと囲む食卓はいつもより大層輝いて見える。

「あれ、先輩もまだ食べてなかったんですか?」

 二つよそわれた白いご飯を見て三奈が不思議そうにしている。

「……いや作ってたらなんかおなかすいてきて」

「なるほど」

 ふふっと三奈が笑う。数時間前に食べたはずなのだが作っているうちにおなかすいてきたのも本当だけど、ちょっと三奈と食べたかったのもしれない。やっぱりファミレスなどの外食で一緒に食べるのとは違う、家で食べるご飯、しかも俺が作ったご飯を一緒の食卓を囲みたくなってしまった。

「いただきます」

 そういえば手料理を振舞うなんて何年ぶりだろうか。まだ無邪気だったころ母のお手伝いと称してカレーを作った思い出がよみがえる。母は危なっかしい俺を大人しく見てられず、結局色々手伝ってもらった気がする。

「うん! おいしいですよ! 先輩!」

 三奈は口の中の物を飲み込み、そう言った。すごくうれしい、作った甲斐があった。行動にはしないけど内心ガッツポーズした。

「それはよかった!」

 二人はあっという間に食べ終え、片づけをしつつしばしの食休みをゆったりととる。

「そういえばいきなり誘って悪かったな」

「いえいえ! そんな! 途中コンビニ弁当でも買おうかと思っていたので、栄養のあるものを頂いてとってとてもありがたいです」

「また誘うし、来たかったらいつでもどうぞ」

「本当ですか~、じゃあ次は私が作ろうかな?」

「お、期待してる」

 食器を洗い終え、机を拭き元通りに片付ける。いつもは気が乗らない片付けだが二人でやれば気づくと終わっていた。お互い明日も仕事なので早々と三奈を家まで送り届けることになり、車に乗り込む。初め三奈は気を使って電車で帰るつもりだったのだが終電も近く好意に甘える形になった。


―――――


―三奈Side・おまけ―


 無心で仕事をして気づくといつも通り、時計の針は十一時を指していた。まだ数人の残っているようだが特に声もかけず、さっさと片づけをし“お先に失礼します”とだけ発して会社を出た。とてもおなかがすいた、駅に行く途中のコンビニで弁当でも買って帰ろう。と考えながら歩き出す。ふとしばらく携帯を見ていなかったことを思い出し、鞄から取り出し通知を確認する。

『おっす、昼飯ちゃんと食べたか?』

 先輩である。なんだか心配する内容が母みたいだと思いながらもうれしかった。返事が遅くなったのを謝罪するのも含め、すぐに返信をした。するとあちらからもすぐに返事が返ってくる。会社から最寄り駅までの所要時間は歩いても十分くらいといったもので、他愛の無い会話をしているうちに駅へ到着し、改札へ向かう。しかしその時携帯が振動する。

『うち会社から近いだろ? よかったらなんか作るよ』

 驚いた。予想していなかった。幸い改札を通る前だったので帰る方向とは真逆を向き小走りで向かった、先輩の家へ。徐々に歩く早さは上がり、もはや歩くとはいえないレベルにまで達していた。そして目的地が見える、ここで気づく返信していないと。

 呼び鈴を鳴らす、すこし心拍数が高い、走ってきたからなのか他なのか。出てくるまでの数秒少し緊張する。

「昨日振りですね! こんばんは! 先輩!」

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