第12話 黒色の一等星

そこは、広大な広さを持つ緑の平野だった。

日が昇れば子供たちが裸足で駆けまわり、暮れれば満点の星が空を埋め尽くす。

まさに、この世の絶景と呼べる場所の一つであった。


ある夜、緑色の大地が細かく揺れ動き、草は街の方へと波のように押し寄せた。

・・・いや、緑色に見えるものは、草ではない。

緑色の波の中から赤く輝くものがチラチラと見え、月光が緑色の波から鈍色の光を反射していた。


――武装したゴブリン達だ。

それも、100や200といった数ではなく、それこそ、緑色の大地のだと勘違いしてしまうほどに群れを成していた。

その数およそ3500。

街一つを滅ぼすには十分すぎる量だ。


ゴブリン達がこの街を襲う理由、それは、新天地の開拓。

飽和したゴブリン達は、土地がやせ、生活の維持が厳しい状態に立たされている現在地から、安定して住む場所を求めているうちにこの街の存在を知り、入念に襲撃の計画を立てていた。


そして、決行当日。

星空は曇天に隠され、星を見ることが出来ない人々はすぐに寝静まった。

ゴブリン達は自分たちに会った装備品を身に着け、体力を温存するためにゆっくりと歩いて街へと向かう。

ゴブリン達が建てた計画は、知識量で圧倒的に買っている人類を出し抜くことができたほどに完璧だった。


――一人の異端者に邪魔をされなかったら、の話だったが。





「そして、曇天が晴れ、月光が大地を照らしたころにはゴブリン達の死体の山が出来上がっていて、その中心に彩夏がいたと・・・」

「・・・もう、またその話を出す!」


私の目の前にいる少女はふて腐れたような顔でそっぽを向く。

短いけれども癖がある鼠色の髪が揺れた。


「だって事実じゃん、ねぇ、聞いてる?『一 等 黒 星』さん?」

「その呼び方ホント止めて。じゃないと絶交だから」

「冗談だってば~」


深蒼色のその瞳をこすりつつ窓を向いていた彩夏が、こっちに視線を戻し、私のことをじっとりと怪しげに見つめる。

いつも思うけれど、彩夏は全体的に可愛らしいから、つい苛めたくなっちゃうのは仕方がないと思うんだよね。


「それで、わたしを呼び出しておいて何の要件?取材ならこの前やったでしょ?」

「あー、うん。今回は取材じゃなくってね、依頼なの」


ペンを伸ばした髪に巻きつけつつ、私は答える。

先ほどの通り名『一等黒星』で分かる人は多いとは思うけど、彩夏はギルドに雇われている傭兵だ。

基本的に行動時間は夜で、体中真っ黒な服を常に着ているのはそれが影響している。

小柄な彼女の愛用武器は、その体躯では想像がつかないほど巨大で重厚な黒いハルバード。

勿論、自力で持つことは出来ないから、機械で作られた特別製の碗甲と靴を装着していて、自慢のハルバードも機械化されている。

それらを作ったのは私達の知り合いで、改造好きな機械オタク、あとは割愛。

そして私は、どこからどう見ても普通の女性・・・のふりをした記者である。

彩夏のゴブリン総伐を記事にした時に、面白半分、二つ名を勝手に名付けて掲載したところ、見事に巷で話題になって大爆笑した。

あれは本当に面白かったなぁ・・・。


「へぇー・・・。レイからの依頼ってまた珍しいけど、どういった要件なの?」

「それが、ちょっと口に出し辛いやつでさ・・・」

「碌なやつじゃなかったらやらないからね」


おっと、また反感を買ってしまったら依頼を受けてくれなくなってしまうかもしれない。

それは流石に不味いから、残念だけどおちょくるのはここまでにしておこう。


「まあ聞いてよ。その以来っていうのは・・・」

「うん」


「とある人の暗殺なんだよ」



1440文字

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