第11話 禁書
誰が言いだしたかは分からないが、その図書館は『聖域』として、人々から崇められるようになった。
そもそも、本読み達にとっては、図書館は初めから聖域と言えるのだが、『聖域』は本読み達にとっては『幻』と扱われる程に、普通の図書館を凌駕していた。
まず場所だが、『世界中にある秘境のどこかに存在している』、『様々な場所へと転々と移動している』などなど、信憑性に欠ける情報しかない。
外装や室内の状況も、場所と同様に『一目見ても図書館とは思えないぐらいに自然に溶け込んでいる』、『果てが見えないほど広くて本棚しかない場所』と荒唐無稽で信頼性に欠けるものばかり。
そんな存在しないような図書館が、人々から『聖域』と崇められる理由。
それは、図書館に蓄積されている本が影響している。
『聖域』には、古今東西のありとあらゆる書物が蔵書されていると言われている。
ハードカバー本から、巻物、亀の甲羅に書かれた文字に最新の雑誌や漫画、果てには世界の常識を覆すような禁書から、とうの昔に消え去ったであろう絶版ですら、その図書館には置かれている。
まさに、『知識の宝物庫』、『学者たちの目指す地』、『全知全能を生み出す場所』、『人類が積み重ねてきた歴史という名の図書館』と、人々の間で伝播して回り、最終的にそれらの名は『聖域』と一つに束ねられたのち、そう呼ばれるに至るには相応しい経緯であった。
場所や外装、室内の状況に信憑性が無いのに関わらず、なぜ蔵書に関しては信頼性があるのか、疑問に思う人もいないわけではない。
しかし、実際にその場所にたどり着き、人生を成功させた人々がいる。
そして、その人々は現に、今の世界で大統領や、歴史的発明や発見をするなど、世界を回すほどの力を発現させているのだ。
どれほど疑り深こうとも、そう言った成功者たちが口をそろえて『聖域』のことを口に出すとなれば、どれほど疑い深い人であろうとも、信じざるを得なくなった。
そうして、とある図書館は『聖域』として、人々から崇められるようになったのだ。
そんな『聖域』には、最近になってとある噂が出回っていた。
そもそもが噂のような存在である『聖域』ではあるが、その信憑性のなさを超え、霞みがかるほどの噂だった。
『聖域』を霞ませるほどの存在、それは『禁書』。
『聖域』の蔵書の中に存在すると言われているそれは、ありとあらゆる概念を覆し、世界どころか宇宙すら滅ぼしかねないと言われる、莫大な量の知識が蓄積された書物である。
中身や見た目はもちろん、大きさ、材質、書かれている物体が何なのか、何によって書かれたものなのか一切不明。
そもそも、宇宙を滅ぼしかねないほどの莫大な知識を、人間が理解することなど出来ないのであろうが、一部のロマンあふれる冒険家や、世界の中核を担おうと企む野心家たちは、『禁書』の中身を一目見ようと、世界中の秘境を旅してまわっているそうだ。
・・・さて、ここに一人の少年がいた。
その少年はどこにでもいるような一般人であり、特出している所と言っても、他人より少しばかり運が悪いことだった。
だが、その運の悪さが少年を『禁書』へと導こうとは誰も思わなかった。
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