第9話 Fifteen

部屋の中央に鎮座する古時計が、重厚な鐘の音を15回鳴り響かせた。

午後三時、所謂『お茶の時間』である。

ゴシック調の服を着た少女は、あらかじめブレンドしておいた茶葉にお湯を注ぐ。

芳醇で、何処か懐かしさを感じられるような、そんな匂いが部屋中に立ち込めた。


少女はこの、『お茶の時間』が好きだった。

暖かな陽気が段々と冷えていき、少しずつ冷気が辺りに満ちていく感覚が好きだし、太陽はほんの少し西日になって、刺すような眩しい程の明るさから、ふんわりと包み込むような明るさになっているのも好きである。

そして何より、あの頃の自分や仲間たちを思い出す・・・。


少女は茶葉から味が染み出たお湯をティーカップに注いでいく。

注がれる紅茶は、先ほどよりも強く滑らかな香りへと変わり、紅色に染まっていた。


「そうね・・・、やっぱりあの頃はよかった」


少女はそう呟きながら、粉末状の砂糖をスプーン一杯分、紅茶に掬い入れてかき混ぜた。

強い香りは少し弱まり、代わりにほんのりと砂糖の甘い香りが増えた。


「・・・この香り。あの頃もそう・・・、こんな感じの匂いが辺りに立ち込めていたわよね」


昔を思い偲び、瞼を閉じた少女の耳には、子供たちが歌っている『花一匁』が聞こえてきた。




紅茶の茶葉園で、八人の少女たちが二組に分かれて、花一匁をしていた。


「「「「勝―ってうれしい花いちもんめ!」」」」


男の子のような、背の高い女の子が満面の笑みをする。


「「「「負けーてくやしい花いちもんめ!」」」」


先ほどから二組の間をグルグル回っている女の子が半泣きの表情をしていた。


「「「「となりのおばさんちょいときいておくれ!」」」」


悪戯っ子で有名な少女が声を張り上げる。


「「「「オニがこわくていかれない!」」」」


ひと際小さい女の子が、それに負けじと大声で叫ぶ。


「「「「おかまかぶってちょいときておくれ!」」」」


眼鏡を掛けた女の子は、周りの子よりも声が小さかった。


「「「「おかまそこぬけいかれない!」」」」


それを見ていたやんちゃな女の子は、少しムッとしていた。


「「「「ふとんかぶってちょいときいておくれ!」」」」


高価そうな服を着た女の子は、顔を真っ赤にして声を出していた。


「「「「ふとんビリビリいかれない!」」」」


さっきまで怪我して泣いていた女の子は、怪我なんてなかったかのように元気に遊んでいた。


「「「「それはよかよか どの子がほしい!」」」」


八人の女の子たちは一斉に周りを見渡した。


「「「「あの子がほしい!」」」」


次はあの子にしよう!


「「「「あの子じゃわからん!」」」」


あの子と同じチームがいい!


「「「「この子がほしい!」」」」


早く違う遊びがやりたい・・・。


「「「「この子じゃわからん!」」」」


今度はわたしがじゃんけんしたい!


「「「「「「「「丸くなってそうだんしよう そうしよう!!」」」」」」」」


それぞれの様々な思惑が交わりつつも、誰を選ぶか決まっていく。


「「「「「「「「きーまった!!」」」」」」」」


先ほど勝った方の女の子たちが、選んだ子の名前を言おうと息を大きく吸い・・・。


「みんなー、おやつのじかんよー!!」


誰かの母親が発したその声で、遊んでいた女の子たちは、我先にへと駆け出して行った。

お互い、誰を選んだのか分からないまま、女の子たちはおやつをありつく。

次はどんな遊びをしよう?おにごっこ?かくれんぼ?それともおままごと?

美味しいおやつを食べながら女の子たちは次にやる遊びについて考えていた。


しかし、遊びを続けることは出来なかった。

おやつを食べ終えて、一度トイレに向かった女の子たちは、二人の女の子を見失ってしまう。

最初は、気が早い子が、かくれんぼをしたくて先に隠れたのだと思っていた。

しかし、二人はいつまでたっても姿を現さなかった。


そしてそのまま、二人は神隠しに遭ったかのように忽然と消えてしまった。





「・・・それで、いつまで立ってるの?紅茶も冷めてしまうし、椅子に座ったら?」


ゴシック調の少女は、先ほどから部屋の隅で俯いている少女へと声を掛ける。

声を掛けられた少女は体に合わない小さな服を着ていて、眼鏡を掛けていた。


「・・・ここは、どこ?」


戸惑いを隠せない眼鏡の少女に、ゴシック調の少女は明るく答える。


「ここは・・・そうねぇ・・・、どこだとは私にも分からないわ」

「え・・・?」

「でもね、ここはいつも15時なの」


ゴシック調の少女がそう言った途端、古時計の鐘が鳴りだした。


「どういうこと・・・?」

「さあ?」



1819文字

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