第5話 大家さんは独裁者!
「一体どうしてこうなったんだ・・・」
どこからどう見ても人畜無害なこの俺・・・佐武統也は、実家から離れた大学へと通うため、学校付近の下宿へとつい最近引っ越してきた。
やけに安い値段で売られていたからどんな酷い物件なのかと覚悟してきたものの、見た目が少しボロいのと、少し若い大家さんの顔つきが悪いだけで、生活していくのには十分なものだった。
部屋も、俺が常に愛用している『ピーちゃん』ことP90のモデルガンを飾る余裕があるほどに広かったので凄く助かっている。
P90は1980年代にアメリカ軍が、剣縦断より貫通力に優れ、突撃銃より取り回しのいい銃を各製造社に発注し、開発された短機関銃だ。正式名称は『PROJECT-90』。全長は500mmで、連射速度は毎分900発となる、中学の頃からの俺の相棒だ。
実は、俺がわざわざ離れた学校に通う理由はこの『ピーちゃん』も関係している。
俺が通うこととなる晴栄大学には、大規模なサバイバルゲーム同好会があるのだ。
俺は今まで年齢制限的な問題で、あまりじっくりとサバイバルゲームをやることがなかった。
だが、戦場を駆けまわる兵士となり、敵を打ち抜き、味方の貢献ができる面白さは他のスポーツでは殆ど感じることは出来ないのではないかと思う。
それに、俺は軍事に関することが大好きだ。
武器や兵器だけではない、各軍隊の規律やその信念に痺れるし憧れる。
将来は好きな物に囲まれつつ、国民の安全・安心を守れる自衛隊になる予定だ。
新生活に浮き浮きしつつ、近くのフィールドを探していると、丁度明日にゲームが開催されるようだった。
「よーし、明日はサバゲ―ランドであるサバイバルゲームに参加するぞ!」
そうと決まれば早く寝なければ。サバゲ―は朝早くから開催されるし、疲れが残ったままだと上手い立ち回りが出来ない。
そう思った俺は、愛銃の『ピーちゃん』にキスした後、すぐ布団に潜って安眠した。
そのはずなのだ。
だが、目の前に広がるこの光景は何だ・・・?
俺はいつの間にか迷彩服を身に包み、『ピーちゃん』を両手で抱きしめていた。
まあ、それはいい。いつの間にか寝ぼけていた俺が、サバゲ―に行きたい欲が高まった結果、寝たままサバゲ―に行く準備をしようとしていたのだろう。
問題は部屋の大きさが10倍以上に広がっていることだ。
・・・いや、部屋の大きさだけではない。ベッドの端に寄っている布団はまるで大きな丘のようになっているし、目覚まし時計は俺のはるか頭上でけたたましく鳴り響いているままだ。
考えられるとしたらただ一つ。
「俺、小さくなってる・・・!?」
試しに『ピーちゃん』を左手のひらにむけて一発撃ってみる。
「いっ、ヒット!・・・あ」
普通に痛いし、癖で玉を当てられたときの掛け声を叫んでしまった。
凄く恥ずかしい。
「だけど、痛いし、恥ずかしいってことは、これって夢じゃないんだよな・・・」
どうにか机の上によじ登って、定規で身長を図りつつ呟いた。
ちなみに、身長はぴったり15cmだった。
一体全体、どうしてこうなったのだろう。
俺の体だけ縮んだのならまだ分かるとして・・・いや、分からないけど・・・。
なぜ、衣服や『ピーちゃん』も俺と同じような縮尺で縮んでいるのだろうか・・・。
それにしてもけたたましいあの目覚ましをどうやって止めようか・・・。
そう思っていた時だった。
鈍い衝撃音と共に玄関のドアが吹き飛んだ。
「・・・は?」
何故かもうもうと煙が立ち上がる玄関から、のっそりと現れたのは・・・。
「大家さん!?」
この下宿に住まう『強面乙女の皮を被った鬼神』こと、大家さんだった。
大家さんはきょろきょろと部屋を見回し俺がいないことを確認した後に、手に持っていた竹箒を槍のように構えたかと思ったら、目にも見えない速さで騒音をまき散らしていた目覚まし時計を貫く。
うるさく鳴り響いていた目覚まし時計はまるで絶命する虫のように、か細い鳴き声のようなアラームを鳴らしたあと沈黙した。
「いやいや、ちょっと待て!その竹箒絶対金属で出来てるだろ!」
「そんなことは無い。使い方によっては、こういったこともできる」
「へ・・・?」
気づいたら先ほど目覚まし時計を貫いた竹箒が俺の方を向いていた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
「小人とは初めて見たな。逆らわないのなら私の下僕として衣食住を負担してやってもいいぞ」
「(あっ、これ拒否件無いやつだ・・・!)」
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