第4話 廃景に機械兵と
唐突ではあるが、人類は滅んだ。
核戦争が起こったわけでも、パンデミックが起こったわけでも、ましてや、謎の生命体によって駆逐されたわけでもない。
ただ、煙を撒いたように一瞬にして消えた。
まるで、初めからその場に居なかったかのように、しかし、普段の生活の跡を残したまま、全ての人類が消滅したのだ。
なので「滅んだ」というよりかは「消滅した」といった方が正しいのかも知らない。
残されたものは、其処に人類が存在していたという証拠。
崩壊してなおわずかに形を残しているビル群が作り出した廃景と、動かす者がいなくなり、放置され続けている人類の英知だけである。
「はぁ・・・はぁっ・・・!」
さて、ここに一人の少女がいる。
学生服に身を包み、大きなリュックサックを担いで、地形が瓦礫で覆われた廃ビル街を、まるで、平地を走っているかのような軽やかさで少女は全力疾走する。
少女は焦っていた。
寝坊して待ち合わせ場所に間に合わないなどといった、生易しい理由ではない。
そもそも、人類は消滅しているのだ。少女を待っている友達などいるはずがない。
ならば、彼女が全速力で駆けている理由は一つしかない。
―――轟音
「・・・っ!」
少女は瞬間的に足を止めて後ろを振り向く。
ビルの一部、瓦礫が積みあがった場所から黒煙が上がった。
瓦礫の山はクレーターと化し、黒煙の陰からソレは現れた。
人類が消滅した後、ソレらは闊歩し始めた。
どこからともなくソレらは現れ、ビル群を好き勝手に破壊し、まるで意味もないように付近をうろうろとする。
そして、生命体を発見すると目の色を変えて襲い掛り、生命体を殺すか、見失うか、もしくはソレの行動ができなくなるまで追い回してくるのだ。
まるで悪質なストーカーのような行動だが、勿論人間ではないし、人間以上の知能を持たない野性的な動物でもない。
ソレは無機質な機械だった。
ソレの見た目を簡単に言うならば、戦車に足が取り付けられ、目の代わりに色の変わるライトを持つような代物。少女は『機械兵』と仮の名前をつけているそれが、少女の後を追いかけていたのだ。
「ほんっっっっっっとしつこい!いつまで追いかけて来るのよ!」
悪態を吐きつつ少女は再度瓦礫の大地を駆け出す。
黒煙から抜け出した機械兵は、赤く染まった『目』で駆け出す少女の姿を確認し、その主兵装といえる砲塔を少女へと向けた。
瓦礫をいともたやすくクレーターに変える砲弾に掠ってしまうだけでも、少女の体は半分以上抉り取られるだろう。
そうならないよう、少女は常に標準が合う前に瓦礫の陰に隠れたり、建物の路地を曲がったりして、機械兵と距離を離していたのだが、今回の機械兵は非常に粘着質なようだ。
少女が何度引き離しても、主砲の砲撃で瓦礫の山を吹き飛ばし、強靭な足で動きが制限される足場でも踏破してしまう。お陰で少女と機械兵の間は一向に縮まらなかった。
「高台に移動するのは嫌なんだけど、こいつを撒くにはそれしかないよねぇ・・・」
休憩のためビルの陰に隠れた少女は呟いた。
話す相手がいないので、自然と喋ることがなくなってきた少女は、それではダメだと思ってか、いつしか、何かあったらすぐに口に出すような癖が出るようになっていた。
「っ・・・!」
嫌な予感がして、その場から急いで駆け出す。
しかし、少し遅かった。
「うっ・・・!」
爆音と同時に少女がいた場所が吹き飛んだ。
細かい瓦礫と爆風が逃げ遅れた少女へ叩きつけられ、少女は10メートルほど吹き飛ばされた。
「痛っ・・・、これは不味いって・・・!」
意識こそ残っているが、吹き飛ばされた際、上手く受け身をとれず、足を捻ってしまった。
これでは走って高台へと逃げることすらできない。
そして、いつの間にか機械兵は少女の目の前で砲塔を構えていた。
「万事休すってね・・・。まあ、仕方がないかなぁ・・・」
少女は諦めがちにそう呟き、右手を機械兵へと向けた。
ここで、少し振り返ってみよう。
人類は消滅した。それは、変えようもない事実である。
少女の家族も友人も知り合いも知らない人も・・・、全員がこの世界には消え去っている。
代わりに存在するのは、人類以外の生命体と、機械兵。
そして、少女もそのルールを破っては居ない。
「壊したら位置バレするから嫌なんだけどなぁ」
そう言った少女の手から紫電が発せられた。
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