第2話 花粉症
「あー、もう!ムカつく!」
「また言ってるのか・・・。今日で何回目だよそれ」
私の隣を歩く男子生徒、志部谷が私のマスクを見ながら呟いた。
花粉症を体験したことが無いくせに・・・!
目が痒くなったり、鼻が詰まったりして辛いんだぞ!
「そもそも、なんで花粉をばら撒くのよ!」
「そりゃ、子孫繁栄の為だろ」
「尚更嫌なんだけど!」
雄蕊から花粉を飛ばして、雌蕊がそれをキャッチするんでしょ。それくらい知ってるわよ。
でも、雄蕊と雌蕊って人間でいうところのアレと、アレでしょ・・・。
それが体の中に入って来るってだけで・・・、うぅ、寒気が・・・。
「寒気がするのなら、花粉症じゃなくって風邪なんじゃないのか?」
「うっさい!言葉のあやよ言葉のあや!」
何でこいつはいちいち私が呟いた言葉にも反応するかなぁ・・・。
ああああああ!花が詰まってると話し辛くてほんっとイライラする・・・!
普段は気にしているセミロングの髪をぐしゃぐしゃと掻きまわしたところでまた志部谷は話し始めた。
「・・・いいのか、髪?」
「良くないわよ!ここまで私をイライラさせるやつなんて滅多にいないし!これも全部全部花粉が悪いのよ!」
志部谷は呆れたような顔で私を見る。
「上野はいつもそんな感じだよな。自分が気になったことがあれば、自分のことを気にせずに、その事ばかりに集中する」
「そうかもね。でも、ここまでむしゃくしゃするのは本当に花粉のせいだから!」
「いつも何かあったらむしゃくしゃしてるだろ?」
「花粉は別問題だから関係ないし!!」
「はいはい」
呆れたままの表情で笑いやがって・・・!ぶん殴ってやろうかこの野郎!
花粉の恐ろしさを知らないから笑っていられるんだって―の!
きっと世の中にいる花粉症の人たちは、絶対に杉や檜をこの世界から燃やし尽くして排除したいと思っているに違いない。だって、私がそうだもん。
「知ってたか、花粉症を引き起こす植物は杉や檜だけじゃないんだぞ」
「え、そうなの?」
「松やイネ科、ヨモギなどが当てはまるらしい」
「へぇ、そう」
だとしたらその植物も焼却対象だ。この世のすべてから花粉症となりうる原因を取り除かねば、私達花粉症患者に明るい未来は訪れない。
「そういえばさっき言ってたよな、子孫繁栄の為に花粉を撒いていると言ったら、『尚更嫌だ』って」
「言ったわよ。それが何?」
どうやら花粉の肩を持つらしい。こいつは「いざという時は私のことを助ける」と言う割に、他人の肩を持つ奴だ。昔から嫌なやつだったがやはり気に食わない。
「上野、ハチミツは好きか?」
「そりゃあ、好きよ」
あの黄金に光り輝く甘い液体は多くの女性を魅了するのだ。それは私にだって例外じゃない。
だが、急になんだというのだ。私は花粉の話をしているのに、急にハチミツの話を持ち出して・・・。
「あっ!」
「気づいたか」
そう、ハチミツはミツバチが花粉を巣に運んで加工したものを人間が採取したものだった。
「で、でも、それと杉や檜は関係ないでしょ!」
「まあ、そうだけど」
「じゃあいいじゃん。私は花粉症を引き起こす杉や檜に対して文句言ってんの」
「さっきまで花粉全般に文句を言ってたじゃ・・・」
「何か言った?」
「いいや別に」
全く・・・、志部谷はいつもこんな感じで私に説教を垂れてくるけど、別に私が何を考えて何を思ったっていいじゃん。志部谷には関係ない話なんだし。
・・・まあ、志部谷に一日中花粉の愚痴を言っているような物だから文句を言われても仕方がないんだけど。
「・・・まあ、そんなに杉や檜を恨んだところで解決はしないぞ」
「・・・分かってる」
でも、志部谷や花粉症にかかったことが無いクラスメートたちはきっと、私達花粉症患者のこの気持ちを、苦しみを分かってはくれないのだろう。
それはすごく悔しいし、憎い。・・・あと、少し寂しい。
「ああ、そうだ」
志部谷が学校指定のバックから一枚のプリントを取り出し、私に渡してきた。
そこにはレンコンやバナナ、ワサビにシソにヨーグルトといった食べ物が書かれてあった。
「・・・なにこれ?」
「花粉症に効く食べ物だ」
「・・・花粉症に食べ物って効くの!?」
初耳だ。花粉症は前もって手洗いうがい、外出時には必ずマスクをするようにしていたが、なかなか花粉症を未然に防ぐことができなかった。
でも、食べ物で改善できるのなら、そういった対策をしなくてもよさそうな気が・・・。
「今、花粉症対策しなくても大丈夫だと思っただろ?」
「うっ・・・!」
はあ・・・。と溜息を吐いた後、志部谷は再度話し出す。
「対策しなかったらもっと酷くなるだろ。対策は何があろうとしておくべきだぞ」
「わ、わかってるわよ」
「あ、それと、辛党でも甘党でもあるお前に一つ忠告。あんまり甘いものとか辛いものを食べるなよ。砂糖や香辛料は粘膜に対して分泌を促したりする成分があるからな」
「そうなんだ・・・」
1974文字
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