百 女 舞 伝

ラッコ

百女舞伝

 今は昔、人間の世界と鬼の世界の間に橋がかけられた。


 橋をかけたのは縹の一族。鬼の世界にあるという金銀財宝を狙い、桃から命を受けた一人息子が三匹の獣を連れて鬼の世界を目指した。


 しかし、人間の世界と鬼の世界の間には死の海と呼ばれる海が広がり、進もうにも進めなくなった。


 方法は一つ、人間の世界と鬼の世界の間に橋をかけることのみだった。


 だが、橋をかける事にはいくつかの条件があった。橋は三日間しかもたず、また、その橋は命あるもので作らねばならなかった。


 そこで縹の一人息子は、八夜米村、七夜村、霧六夜村の三つの村から、子供から老人までの全ての男に薬を盛って眠らせ連れ出した。


 息子は死の海に男達を沈め、橋をかけた。すると辺りが光に包まれ、男達が投げ込まれたところに木橋が現れた。息子は恐れ喜び嬉々として橋を渡った。


 しかし鬼の世界から財宝を持ち出そうとした息子は鬼に気付かれ、財宝に触れることなく逃げた。

 息子は一匹目の獣に鬼の目を突いて潰すように命じた。その獣は怯えながらも果敢に立ち向かったが、鬼に鷲掴みにされ、羽をむしられた。


 息子は二番目の獣に鬼の耳を引きちぎるように命じた。その獣は雄叫びを上げながら鬼に飛びかかったが、鬼にはたかれ、ゴツゴツした岩に叩きつけられた。


 息子は残った最後の獣に自分を乗せて走るよう命じた。その獣は息子を乗せ、震える足に鞭打って懸命に走ったが、鬼に蹴り挙げられ、海で鮫の餌食となった。


 息子は運よく橋へ落ちたが、怒り狂った鬼に握りつぶされた。


 だが、残った橋は鬼の世界と人間の世界とを繋いだまま残されていた。人間の肉を求めて鬼は橋を渡り人間の世界へ渡った。鬼に狙われ、二つの村が犠牲になった。


 鬼たちは山を超え谷を超え、次々と村を潰していった。そして次に狙われる対象となったのは七夜村だった。七夜村の女達は、男達を奪われて悲しみにくれていたが、このまま食い殺されるわけにはいかぬと思い、同様に男衆を奪われた三つの村から女達をかき集めた。


 鬼たちは七夜村にたどり着き、人間を求めて家々を回った。だがしかし、いくつも家があったのにも関わらず、どの家にも人間はいなかった。

 鬼たちは訝しみながらも村を進み、奥にある社にたどり着いた。社には明かりが灯り、中からは楽しげな音楽が聞こえる。社から狐の面を付けた少女がひとり出てきて鬼たちに言った。


「よくいらっしゃいました。」


 鬼たちは何も言わず今まで通りにその少女を食おうと大きな手で掴み、握りつぶそうとした。

 その少女は掴まれても全く慌てるそぶりを見せず穏やかな声で言葉を継いだ。


「疲れていらっしゃるでしょう。ここで休んで行きなんせ。」


 鬼たちはこの少女を不思議に思った。いや、恐ろしさも感じていた。生命の危機とあるのに反してその顔は晴れやかで自分は食べられないと確信している顔だった。鬼たちは観念し、少女に語りかけた。


「そなたは何を思ってその様な顔をする。」


 少女は首をかしげて鬼たちへ言った。


「あなた様がたはこの百女村に疲れを潤しに来たのでしょう。さあさ上がっていきなんせ。」


「我々はそなたらを食いに来た。」


 鬼が告げると少女は笑って言う。


「そうでございましたか。それなら上がってあちきらの舞を見ていきなんせ。食うのはそれからで良いでしょう。」


 鬼たちはこの少女を訝しみながらも舞を見てから女達を食えるならと、社へ入ることにした。

 社に入ると、女達は鬼を歓迎した。飲めや歌えやの大騒ぎ。鬼たちは人間を食うことを忘れて、女達に勧められるままに酒を煽った。大樽の酒を百は飲み干したところで女達は舞い始めた。

 美酒に酔いしれ、美女に酔いしれ、鬼たちはだんだんに意識を失っていった。鬼たちが全員倒れると、女達は舞をやめた。


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 百女舞伝

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