“図書室で借りたあのファンタジー”
- ★★★ Excellent!!!
(38話まで読了済みでのレビューです。ネタバレは含みません。)
作品を読み真っ先に思い出したのは、その昔、図書室で借りた海外ファンタジーの小説を読んだときの没入感です。
まるで世界の秘密を隠しているかのような、魅力的なタイトル。重い表紙を開けばほんのり紙の几帳面な匂いがして、平たく並んだ目次の行列を抜けると、魔法のように物語が始まったものでした。日ごろ見慣れているはずの言葉が、頭の中で美しい映像に編み上げられていくのです。夢中で夜中まで読みふけった時間は忘れがたく甘美で、しおりをはさんで日常を送っていても、遠く離れた友人を思い出すように、いつでも心の中で物語に会うことが出来ました。
本が好きならば、誰もが多かれ少なかれそんな幸福な体験を持っていると思います。そして、そんな体験をもう一度味わいたいがため、誰もが新たに本を手に取るのでしょう。
本作は、子供の頃に読んだファンタジー小説への郷愁を抱えたまま、多くのファンタジー作品の読者でいられる時期を過ぎてしまった気持ちがあった自身にとって、童心に返るように、久しぶりにそんな心躍る読書体験を与えてくれた作品でした。
重厚な世界観、まるで本当に血が通っている人間がそこにいるかのような心理描写、それらは著者の博識さと高い文章力に裏打ちされていて隙がありません。完成度が高く本格的な作品です。
故郷を焼かれ心の奥底まで炎の色に染め上げられたキイラは、不思議な友人を得て、新しい人間関係と交差し、未知の学問を学び、見知らぬ土地を歩き、忍び寄る暗い運命の手をかいくぐりながら、沢山の、キイラ自身も知らなかったであろう感情と向き合い、懸命に悩み成長していきます。焼け焦げた心で憎しみを火種に生きるしかなかった彼女が、様々な事象と出会うたびに染め上げられていく感情の、キイラという主人公を象徴するかのような苛烈さ、鮮やかさ・・・。
この物語はあらすじに記載されているとおり復讐譚ですが、その奥底に流れるのは、まるで祈るような人間への愛だと感じました。全編を通し、心に対して真摯な描写が胸を打ちます。
そして、素晴らしいことに現在まだこのお話は完結していない為、続きを楽しみに明日もがんばることが出来るのです。更新を楽しみにしています、応援しています!!!
祈りの国は、著者の人気作「アイオライトの心臓」と同一世界観を持ち、時系列としてアイオライトよりも昔の物語です。物語として直接関係はなく、どちらから読むことも出来るとのこと。ですが、二作を読むことでより深く、この作りこまれた世界の歴史を味わうことが出来ることでしょう。