地球と救世主さま 下


「ふぅ」

 と、俺は一息ついて言った。

「で、その地球さんがなんで俺なんかに助けを求めるんだ?」

「それはですね、救世主占いです!」

 女の子というか地球さん(仮)は自信たっぷりにそう言った。


「う、占い?」

「全世界の人類名簿から、私の危機を助けてくれる人を占ってみたんですよ。そうしたら! あなたが出たのです!」

 人類名簿? なんじゃそれ?

「てか、占いで決めんなよ!」

「これは神様のお告げなのですよっ!」

「そういうもんか?」

 地球が滅亡するのも神の意志なんじゃないか……? と思ったがそれは置いておいた。


「で、そんな占いで選らばれた俺は何をすればいいんだ!」

「噴火を止めてしてください」

「無理」


「えー、なんでですか? 救世主さま!」

「俺は超能力なんて持ってねーよ」

 この地球さんとやらが起こした地震でビビってるのに、地球が対処できない事がこんなちっぽけな俺に出来るわけが無い。

「じゃあどうすればいいんですか!」

「こっちが聞きたい」

 女の子は今にも泣きそうになりながら目を潤ませた。


「おい、泣くなって……」

 外を見ると今にも雨が降り出しそうな空模様だった。

 俺はまたため息をついて言った。

「そんなの神様にしかわかんねぇよ」

 地球さんは、その言葉を聞き、思い立ったかのように急に笑顔になった。

「じゃあ、神様と交信してみましょうか!」

「は? 神様と連絡とれるんかお前は!」

「星ですからある程度は」

 女の子はおもむろに携帯を取り出した。


 おい、神様と交信って、こうなんか変わった儀式とかしなくていいんかい。

「もしもし、お久しぶりです。地球です!」

「俺にも話が聞こえるようにしろ」

「あ、はい」

「あの、最近高血圧になってきたみたいで、私が噴火しちゃうみたいです……」

 よりにもよって高血圧なのか。


「うん、そうだね」

 電話のむこうから、少年のような声が聞こえてきた。

「知ってるなら助けてくださいよー!」

「嫌だよ」

 生意気な返事が聞こえてくる。

「だって噴火させようととしたの僕だもん」


「え?」

「ふざけんな!」

 と俺は地球の携帯を取っていった。

「君はあれだね。青木高志くんかな?」

「なんだよ」


「なんか、地球に救世主として選ばれたみたいだけど、僕お告げしてないから多分たまたまだよ? 君は救世主なんかじゃないってこと」

「そんなことはどうでもいい。ともかく滅亡なんてやめろ!」

「そんなの君には関係ないね」

 プツリと電話が切れた。


「切られちゃいましたね……」

「そんなのんきな事言ってられるか! またかけ直せ!」

 地球さんは俺に言われたように電話をかけ直した。


「駄目です。着信拒否されてます!」

「なんだと!」

 神様のくせに着信拒否とは卑怯な!

 俺は苛立った。地球さんがなんとか出来ないなら、神様に頼るしかないのに……。

 持ってる神社のお守りを投げつけようとした時、ふと考えた。


「おい、さっきの神様はどこの神様なんだ?」

 地球さんが首をかしげる。

「銀河を統括する神様ですが」

「他には神様は居ないのか?」

「居ますよ」


 地球さんの話によると、地球にはたくさんの神様が居る。

 山の神、風の神…エトセトラ。ただ、銀河を統括する神様ほど力は無いらしい。

「で、どうするのですか?」

「その神様たちを集めるぞ!」

 俺は地球に神様の呼び出しを頼んだ。


 地球さんは誰かを呼び出ししたようだ。すると女性の声が聞こえた。

「どうしたの? 地球さん」

「それが、私、地球が滅びることになってしまって」

「ああ、そのこと」

「知っていたのですね」

「他の神たちも皆知ってるわよ」

 俺は地球さんと電話を変わった。

「なんとか出来ないのか」

「残念だけど、最高神が決めた事だもの……」

「そんなぁ」

「あんたたちはそれで本当にいいのか? 今までこの地球を守ってきて、それで本当に消えちまっていいのかよ」


「私たちだって良くないと思ってるわ。でも、いつかは消えてしまう運命」

「そんな運命なんて変えちまえよ!」

「あなたの人生覗かせてもらったわ。今まで頑張ってきたようね。でも神と人間は違う。生きるものに忘れ去られればあっさりと消えてしまうのも神なの」

「だからといって、諦めるのか? 神様だって人間のように悪あがきしたっていいじゃないか。神様のプライドなんていらない。そんなの捨てて人間のように動いてみろよ!」


「人間のように……か」

 女性は少し黙って、それから言った。

「分かったわ。皆でやってみましょう」

 女性の声の神様は承諾したようだった。すると俺の部屋にふわっと小さな狐のぬいぐるみが現れた。

 小さな狐のぬいぐるみはちょこちょこと動いて、俺の前に来た。


「よろしくお願いね。高志くん」

「ありがとう、狐の神様」

 狐のぬいぐるみなので、俺は狐の神様と呼ぶことにした。


 それから狐の神様は色々な他の神様と交信した。

 諦めて何もしない神様もいたが、やはり思いは同じようで、たくさんの神様が協力してくれることになった。

 俺たちは地球のマグマをそれぞれの神が持つ特徴を生かし、押さえつけられないか考えた。だが、地球の規模は大きく、地球に居る神様の力だけでは押さえつけられない。

 地球の圧力が高まっているのは宇宙関連の問題らしいので、地球に住む神様にはその力は無いのだ。


「くそ、どうすればいいんだ」

 俺は弱音を吐いた。

 周りの神様も何か方法はないものかと、考えているようだったが、自分たちに出来る事はもう無いのかもしれないと残念そうに言っていた。


「もう諦めたら?」

「お前は?」

 俺たちの前に突如現れたのはフードをかぶった少年だった。


「最高神様!」

 地球さんが驚いて言った。

 こいつが銀河を統括する神様ってやつか……ガキじゃねえか。


「なんで神様は地球を滅ぼそうとするんですか?」

 と地球さんはその少年に言った。少年は少し黙ってから口を開いた。

「それはね、君たちが居ると、僕が駄目になるからさ」

「どういうことだ?」


「先輩の神様からこの辺の銀河を頼まれたんだけど、折角できた地球も住んでいる者が悪くなってきちゃってガタが来ているんだ。僕は神様の中でもまだひよっこだから、ちゃんと星を再生させるのは無理なんだ。そんな星を放置していたら僕の評価も落ちるし、だったらいっそ消しちゃえばいいということさ」


「それって、神様の自分勝手なことじゃないですか! そんなの納得できません!」

「……お前はそうやってダメな奴は消していくのか?」


 俺は思い出していた。去年のダメな俺。だけど、今までの努力をして一歩一歩進んできた自分を。


「お前がやってるのはただの諦めだ! 諦めないでいけばダメな奴だって一ミリ、いや一ミクロンでも良くなるはずだ。頑張ってる奴を見捨てるな!」

「君が頑張ってる事は知ってるよ。だからって僕と君では規模が違うんだ。僕は神様で君は人間」

「神と人間は違うだなんて、そんなのただのおごりだろ。神様だって皆、成長していくんだよ!」


 そう、神だって同じだ。銀河でも見捨てられることを恐れてこの神は結局そんな結果に至った。だが、それは間違いだ。

「だから俺はお前を見捨てない!」


「うわーん! もうすぐ噴火しそう!」

 地球さんはいきなり叫んだ。

「くそ! 俺は諦めないぞ!」

 神様は一息ついて言った。

「わかったよ、もうやめるよ」


 すると周りが無音になった。

「時を止めた」

 神様がそう言うと、地球さんはやったー! と喜んでいた。


「でも残念だけど、僕は時は戻せないんだ。だから、このまま噴火してしまう」

「えええええ!」

「おまえ! ちゃんとやることは自分の力量みて判断しろって……」



 俺がそう言った時に、世界が無音で時が止まっているにも関わらず、俺の後ろから風がふいた感じがした。


 そして夢の中に居るような遠い感覚と共に、思い出す。

 自分が何者であるかを……。


「全くしょうがない奴だ」

 俺は少年神の頭をなでて言った。


 そして勢い良く、今まであったことが逆再生の様に目の前を記憶が通り過ぎていく。

止まっていた世界が元に戻った。


「このくらいしないとダメだぞ」

「高志くんいや、君は一体……?」

「俺もお前と同じ神様ってやつよ」

 俺は自分の立場を明かした。


「さすが救世主さまですねー」

 地球さんは喜んでいった。

 少しは驚け。さすがの天然。地球さんの行動には神の俺でも把握できないところがある。

「これからも頑張って銀河の管理しろよー。ひよっこ神様」

 こうして地球は滅亡を逃れた。



 俺は神である事を忘れ、また人間として生きるだろう。

 それが今の俺にとって人間を理解する大事な事だから……。



――――――――――――――――――――――――――――



 俺はいつも通り受験勉強の日々をおくり、健康も万全で、受験日の当日になっていた。

「さあ、受験だ。頑張るぞ!」

 耳あてをした知らない女の子がこちらを見ている気がした。


 神様、仏様、合格をどうぞお願いします。

 心の中でそう祈りつつ、俺は受験会場へ向かうのだった。

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地球と救世主さま 志鳥かあね @su7

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