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 ジュゥゥゥゥ〜〜〜〜


 例の事件から二週間。あれからいったいどれだけのお好み焼きを私は焼いただろうか。多分、100や200ではないとおもう。お祭りの開催まで残り一週間。時間はもうあまり残されていない。


「はぁ・・・もう、お好み焼き作るの飽きてきました」


 お好み焼き屋ならまだしも、そうでないのだから、たまには別のものも作りたい。


「おいおいおい、バカのこと言っちゃいけないよ。当日は、二度とお好み焼きを見たくなくなるようなくらい焼かなきゃいけないんだからさ。一日だけの限定復活ということで、町内会長達も特別ブース作って大々的にやるっていってるんだから」


 そのことについては、おばちゃんとの交信を行った翌日に梅さんから聞かされたので知っている。なんでも、噂が完全に独り歩きしているようで、収拾がつけられないような状況になってしまっているらしい。それならいっそのこと、周りの屋台に迷惑がかからないようにと特別ブースを作って、切り離したほうがいいのではないか?ということから、特別企画という形で一日だけ出店することで話をまとめたらしい。


 では、なぜ私が連日お好み焼きを焼く練習をしているのかというと、お祭り当日に焼き方をメインに担当するのは大将なのだが、役員を何年もやっている梅さん達に言わせれば「間違いなく大将が倒れる」との指摘があった。


 実際、おばちゃん達が屋台営業をしていたときも、調理2名と会計をする人1名の3人体制で回していたらしい。今回は、会計を梅さんと大内さんが、私と大将の2人はただひたすら永遠と魂が抜けるくらい(梅さんが言うには)お好み焼きを焼き続けてくれとのこと。


 口寄せを行ったあの日、解明できなかった隠し味的なものを大将に伝えると、早速その晩に梅さんと大内さんの声掛けで集まった人達にお好み焼きの試し焼きを食べてもらうことになった。一口食べた皆は一様に


「「「これだよ!これこれ」」」


 と言った。ここに幻のお好み焼きは無事に復活したのであった。中には感極まって涙を流す人までいたくらいの出来栄えだった。


 そしてその翌日、私が試し焼きしたものを梅さんを始めとした何人かに食べてもらったのだが、どうもしっくりいかないご様子で、そこから特訓の日々が始まったのであった。


 おばちゃんのお好み焼きは、クレープのように薄く伸ばして焼き上げた生地を、クレープ状(皆は春巻と呼ぶが)に整形したものだったらしいのですが、練習している段階で、焼いて包んで、それをまた包装紙で包んでという作業は行ってみると、慣れていない私たちにとってはかなり手間がかかると言うことがわかった。


 どうしようかと悩んでいると大将が妙案を思いついたのである。それは、九州地方では一般的な「はしまき」という形にしたらどうか?というものだった。


 はしまきとは、その名の通り箸にクルクルとお好み焼きを巻きつけたもので、その形状から食べ歩きにも適しており、全国的に見てもあまり知られていないものでもあるから、話題性としてもいいのではないのか。というのだ。


 作る側としても、焼き上げたものを割っていない割箸で挟んでクルクルと巻いていけばいいだけなので、元祖のものより作る手間はぐっと少なくて済む。さらに、仕上げのソース塗りとかトッピングも会計の2人に任せることができるので、焼き方は本当に流れ作業のように焼いては巻いてを繰り返していけばいい。


 そうと決まると、連日連夜、はしまきお好み焼きの特訓が始まった。


 特訓が始まると、「巻くのが早い」だとか、「焼きすぎてジューシーさが失われている」だとか、「具材の量がバラバラすぎる」とかとか、当事者三人に辰さんを加えた大の大人四人が連日かわりばんこにず〜〜っとダメ出しばかりしてくる。


 あれから何度かお好み焼きを焼いては、おばちゃんの味を知らないお客さんや常連さん達に食べてもらってみた。その人たちにはかなりの好感触なのだが、思い出補正がされているコアなファン達のハートを掴めるレベルまでにはまだ到達できていないらしい。


「うぅぅ〜〜・・・みんなが寄ってたかってイジメるよ」


そんなことをぶつぶつ呟いていると、


「いやいや、最初の頃よりはずっと良くなってるよ。やっぱりとみちゃんは筋がいいねぇ〜」


 褒めてるのか煽ててるのかわからないけど、ほぼ連日、私のお好み焼きを肴にお酒を飲みに来ている辰さんはそう言う。


「初めの頃は焼きムラがありすぎて、一つとして同じものがありませんでしたからね。最近ではやっとまともに焼けるようになってきたんじゃないのか?トミ」


 大将にそういわれるのであればきっとそうなのであろう。おばちゃんのお好み焼きの具材はとてもシンプルで、一般的なお好み焼きの生地に、天かす、紅しょうが、青ネギ、甘辛く煮たこんにゃく、キャベツ、そして隠し味。

 子どもたちのお小遣いで気兼ねなく食べられるようにということで、肉などは入っていない。シンプルが故に難しいとはまさにこのことだろう。


「トミ。当日は去年の弁当作りの比じゃないからな。体調だけは整えておけよ」


 それを聞いて「ひぃ〜」っと悲鳴を上げる。今更ながら、手伝いなんかしなければよかったとちょっと後悔している私でした。

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