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 ガシュガシュガシュガシュガシュ


 お昼ご飯を食べお腹いっぱいでお店に戻ってくると、「戻ったか、じゃ、こいつ頼む」と大将に渡されたのは、大根一本とおろし金。どれだけやれば?と聞くと、全部と言われ、それから、かれこれ30分以上ずぅ〜〜〜〜っと大根をおろし金でガシガシガシガシ。


「ふぅ~、大将、全部おろし終わりました」


 やっと終わった。昨年末に、純一さんが名古屋コーチンを持ってきた時に、みぞれ鍋を作って以来の大量大根おろし祭り。それにしても、こんな春の陽気のシーズンに一体こんなに大量の大根おろしを何に使うというのか。


「終わったか。そうしたら、そいつをさらしで絞って、大根と汁と分けてくれ。カラカラに絞らなくていいからな」


 言われるがまま、おろした大根をさらしで絞り、大根液と大根の実の部分とを分ける。


「実の部分は今晩の晩飯なんかに使うから冷蔵庫に入れておいてくれ。で、汁の部分と同じ量くらいの水で薄めて欲しい」


 そうして出来上がった、水で希釈された大根液。そこに塩を二つまみくらい入れ、ドボンドボンと何かを入れていく。


「これは、たけのこ?」


 入れられたのは、皮を剥き、小さく切られたたけのこだった。そういえば、朝、段ボールに何本か泥のついたたけのこを持ってきていたのを思い出す。でも、たけのこって、米ぬかとか米のとぎ汁とかで『アク抜き』するんじゃないのかしら?


「以前は糠や米のとぎ汁でアク抜きしていたんだけどな、西麻布の日本料理店『分とく山』の野崎料理長が大根おろしを使ったアク抜き方法を考案して、一度やってみたらこれが楽で楽で。」


 たけのこのアクの原因は、ホモゲンチジン酸と呼ばれるものらしく、これはアルカリ性水溶液によく溶けるのだとか。たけのこの水煮なんかのパッケージに書いてあるph調整剤はこのアク抜きのために添加されているらしい。どうして大根おろし水なのかというと、安全なうえアルカリ性の性質を持っているからなんだとか。


 やり方は簡単で、大根おろし水に1、2時間つけ、頃合いをみて取り出す。これだけでもかなりのアクが抜けているとのことですが、煮ることで更にアクを抜くことができるとのこと。


 大根おろし水から取り出したタケノコのうちの半分は、多めの酒とカツオと昆布で取った出汁でコトコトと煮ていく。竹串がすっと入るくらい煮えたら醤油で味を整えて、タケノコの煮物の出来上がりである。


 もう半分は、一口で食べれる大きさに切り、研いだ米に、塩昆布、醤油、酒、味醂を加えた、それらと一緒に炊き込んでいく。それとは別にさやえんどうをさっと塩茹でし、斜めに切り、炊き上がったご飯の上に食べる直前に、細かく切ったあさつきと一緒にパラパラと散らして


「ん〜〜〜〜♪大将おいしいですぅ〜〜〜♪」


味見と称して、煮物とたけのこご飯を頂いた。あまりの美味しさに、その場でピョンピョン跳ねてしまう。


「お、トミちゃん。どうした。そんなに上機嫌にして」


そういって、お店に入ってきたのは、梅さんと大内さんだった。


「いらっしゃい。どうしたんだい?町内会長と一緒なんてめずらしいじゃねぇか」


「あれ?トミちゃんに、今日お邪魔するよ。っていってあったんだけどな」


あ・・・しまった。戻って、即、大根おろしタイムでうっかり忘れていた


「それなら手間が省けてよかった。梅の好きなたけのこ煮たところなんだ。昨日のお礼に後で持っていこうと思ってたんだ」


「お。うれしいねぇ。この時期のたけのこには俺目がないんだよ。とりあえず、ビール二本。よろしく」


そういって梅さんと大内さんは席に着いた

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