三品目 おばちゃんのお好み焼き

「えぇ~、それでは、今年の春祭りの会議を始めたいと思います」


 役員長の電機屋の梅さんが音頭をとる。


 今日は、商店街の近くにある河川敷沿いの神社で毎年行われる桜祭り開催にあたっての会議の日。大将に「トミ。代わりに行ってきてくれ」と言われて、渋々来たのでありました。会議といっても、商店街と町内会の人たちが集まって去年の反省をどう改善するかを話し合うのがメイン。


「昨年はスマートフォンの自撮り棒に当たって怪我をされた方が数名いました。また、それに関することで喧嘩も起きていますので、今年は看板などで注意喚起したいとおもいます」


「介護施設に入所されている方達の来場も多くありましたので、階段の多いところはスロープを新しく設置してはどうでしょうか?」


「お祭りが終わった後のゴミの散乱がひどかったので、ゴミ箱をもう少し広範囲に設置してはいかがでしょうか?」


 などなど、商店街の人たちから意見が出される。


 当日につくしがお祭りに出店することはないのですが、出店者さんたちにお弁当をお届けすることになっているので、関係者といえば関係者なのです。商店街にあるお弁当屋さん達は、お花見をする人たちの注文を作るのに手一杯ということで、大将がお店を開いた翌年から担当しているとのこと。


「ということで、来月のお祭りに向けてみなさんよろしくお願いします」


 約1時間。ん~~~~、やっとおわった。私が背伸びをしていると、みんな一様に会議室から出ていく。


「トミちゃん。大将の代理お疲れさま」


 梅さんがペットボトルのお茶を持って近くにやってきた。私はペットボトルを受け取ると、


「梅さんこそお疲れ様です。役員長って大変ですね」


 昨日お店のエアコンの調子が悪くなって来てもらったときに「町内会長が資料のデータをくれないから資料印刷できなくてさ、弱っちゃうよね」と言っていたことを思い出す。


「年に数回のお祭りだし、商店街としても稼ぎ時だからね」


 桜のシーズンになると、商店街は平日でもたくさんのお客さんがやってくる。表通りもさることながら、つくしのある裏々路地でも人の往来が増える。


「今年の出店数去年より多いみたいですしね。頑張ってお弁当作らなきゃ」


 お祭りの時のお弁当作りも、今年でやっと2回目の私。去年は「トレー並べたら、ご飯を詰めて、詰め終わったら梅干し!」と大将に怒鳴られ、必死にごはんを詰めて梅干を乗せていた。ただそれだけなのに、すべてが終わった後、右手が痙攣してプルプルしていた。そんな私とはうって変わって、車にお弁当を積み込んで配達して、追加注文を一人ですべてこなしていた大将を見たときは、変人だと思ったものだ。


「みんな楽しみにしてるからよろしくね。今回は流行りの移動販売の人たちも参加することになったから出店場所の配置をもう一度見直ししないといけないけど、まぁなんとかなるんじゃないかな」


 去年は、進入禁止エリアに数人の迷惑なお客さんが車で乗り付けてきて、お巡りさん達と一悶着あったらしい。痴漢騒ぎとか、盗撮したとかしてないとか、それはそれはいろんなことが起きていたらしい。毎日お弁当作って、お店の仕込みをして寝るだけの生活だったから、風の噂程度でしかしらないのだけど。


「おぉ~梅さん。ここにいたのか~」


 少し額が後退し始めてきている町内会長の大内さんが私たちの傍にやってきた。


「これは町内会長。どうされました?」


「実は、今年の出店の件でちょっとご相談したいことがありまして。ここだとあれですので、どうですか?一杯やりながら」


 手で飲むしぐさをしながら、大内さんがそう言うと


「そうですか…実は、この後1件お客さんとの約束があるので、夕方落ち着いてからでもいいですかね?」


「私は全然かまわないですよ。でしたら後ほど携帯にご連絡いただけますかね」


 わかりました。という返事を聞くと、大内さんは会議室を出て行った。


「と、いうことで、トミちゃん。今日夕方行くからよろしくね」


 そういうと、梅さんも私に手を振って会議室を出ていた。


 よし。私もお店に戻って仕込みのお手伝いをしないと。大将にお昼ご飯を食べてから戻るとメールを送って会議室を後にする。


 さ~て、今日はなにを食べようかな♪

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