第一話 山崎幸也には運がない⑧
────という経緯があり。
俺は今、ウズメと二人、肩を並べて町内を歩いているのであった。
ウズメは相変わらず俺の隣で、誰に話すでも無いウンチクやら雑談やら、どちらにしろどうでも良い話を何度も何度も一人言のように話続けている。
俺はそれに、何の相槌を打つでもなくただただ普通にガン無視という名の聞き流しをしていた。
と、俺はここでふいに気になってしまった。
俺が今歩いている町並みが、俺の知る町と何処か違っていることに。
だからと言って、俺か違う町に来たのかと言えばそう言うわけでもない。
俺は確か、走って数分であの店に着いたのだから。
だから絶対、別の町にいるなんてことはあるはず無い。
なのに。
何だ、この違和感は。
うーん………。
考えてみてもさっぱり分からん。
まあ、詳しくは後でウズメにでも聞いてみるとするか。
と、俺がそんなことを思っていると。
「着いたわよっ、愚民‼」
ウズメが足を止め、俺の方へ視線をやってそんな言葉を大声で言った。
「声でけぇよ。てか、愚民って呼ぶな。幸也だから、幸也」
俺はそう言って、着いたのかとウズメの方を向く。
俺とウズメの向かっていた場所はそう。
─────駄菓子屋であった。
ウズメに聞いた話によると、今は三代目店主が営んでいるんだとか。
「早く入るわよ、愚民」
と、俺はウズメにそう促され、駄菓子屋の中へと足を踏み入れた。
中は、御世辞にも広いとは言い難い程の狭さであった。
中には懐かしの駄菓子から見たことの無いものまで、種類豊富に小さな段ボールを真っ二つに切ったかのような箱に詰められていた。
と、ウズメは早速、あの赤髪少女の御望みのそのかの有名な、某人気正義の味方、愛と勇気だけが友達の最高ヒーロ型のチョコレートを手にレジ────というか、店主のご年配の女性の方へと向かっていた。
と、ウズメはチョコレートを店主に向かって差し出し、お金を要求されている────様なのだが。
ウズメはお金を要求する店主に向かって、ずばりと言い切った。
「お金なんてそんなもの払わないわ!
俺は盛大にウズメの後頭部に空手チョップを食らわしてやった。
☆☆☆☆☆
「ったくお前は、何考えてるんだよ。
「だってぇ………値切るくらいなら
駄菓子屋からの帰り道。
俺は、半泣き状態のウズメを引き連れて例のあの大木のもとへと向かっていた。
あの後。
ウズメがチョコレートを無料で売ってくれだのそんな寝言のような言葉を吐いた後。
「は?」
お婆さんからとても聞けるとは思っていなかったそんな言葉を聞き、俺はポケットに入っていた財布からチョコレート代を取りだし、お婆さんに払い終わるとウズメとチョコレートを手に駄菓子屋から走るように逃げ出した。
─────で、帰り道でウズメは泣き出すわ俺は好奇の視線に晒されるわで色々と迷惑な状況にあった。
てか、駄菓子くらいで値切りをしようとするな。
大体このチョコレート、100円もしないだろ?
そのくらいの値段なら最初から普通に買えって話だ。
と、俺がそんなことを思っていると。
「ついったー!」
「変なところにアクセント入れるな。別の単語に聞こえるじゃないか」
俺はさっきまで泣きじゃくっていた奴と同一人物だとは思えないような元気さで叫んだウズメにそう軽く突っ込んだ。
─────例の大木の処までやって来た。
さっきまで普通の、石畳で出来た道並みを歩いていたせいもあって大木が纏うように大木の周りにある草木々やら虫やらが邪魔でたまらない。
俺は、虫を払い除けながら、隣で鼻歌混じりのスキップで歩いているウズメに構わずあの赤髪の少女を探し始めた。
─────と、暫く経って。
ふわっ、と。
俺とウズメの目の前に、例の赤髪少女が現れた。
俺は驚き、ウズメは変わらず鼻歌を歌っていた。
と、そんな俺達を前にして。
赤髪の少女は、一言言い放った。
「チョコ、食べたい」
タイトル(未定) クロマメ @88541mame
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