第1話 山崎幸也には運がない⑦

「うる………さい………………誰か…………いる………?」

そんなぎこちない台詞と共に、木────大木の上から飛び降りてきた少女。

ショートカットの赤髪に、綺麗で透き通った、けれどウズメとは少し違う存在感のある慧眼。

顔は所謂「童顔」というやつで。

そして、背丈からして俺より大分年下。

出るところも無く、全体的に幼さを漂わせている。

彼女は────木から降ってきた彼女は、そんな人物であった。

「あ、思い出した!!この大木の通称は──────って、うわぁぁぁぁぁ!!!!ちょっ、誰よあんた、誰よ‼」

一人大木の名前を思い出そうとしていたウズメは少女の姿に気付くとその存在に食い掛かった!

「おいやめろって、年下相手に少しは遠慮しろよ!」

俺は少女の方を見ながら言った。

ほら見てみろ、怖がって……………

─────無かった。

何でだ。

少女は無表情のまま、ただ呆然と立っていた。

と、少女を見たウズメはここぞとばかりに。

「ほうら‼見てみなさい‼あの子、怖がってないじゃない‼私の怖さを分かってないのよ‼愚民、見てなさい、私が思い知らせてくるから!!!!!!」

言ってウズメは、拳をグーにして少女の方に…………

「っておい、何やってんだよお前は!人様の子に何しようとしてんだ!」

俺は慌てて、少女の方に拳を構えてズカズカと乗り込んで行くウズメの両脇に手を通し、がっつりと腕を掴みウズメのことを抑える。

「あんたこそでしゃばりすぎよ、愚民。いいからその手を離して………ってこそばゆいです、そこだっ、く、首は、首はぁ!!!!」

「どうだ、参ったか。参ったならその拳は降ろしてお前は少し引っ込んでろ」

ウズメがちょーっと五月蝿かったので、俺はうなじ部分に軽く『ふーっ』と息を吹き掛けてやった。

ウズメはそれに降参したのか、暴れるのを止め。

「…………っ、この愚民ごときが‼覚えておきなさいよ‼今度こそ酷い目に逢わせてやるんだからっ‼」

………。

よし。

俺はそんな言葉に耳を貸してわざわざ苛立ちを覚えるような馬鹿とは違う。

俺は、ウズメの足が軽く地面から浮いてしまっていたので足を確りと地面に着け。

そして、ウズメの膝目掛け思いっ切り────



「膝カックン!」



「────ったぁぁぁぁ‼‼御願い‼御願いだから‼お願いですもう何もしないで下さい酷いです御免なさいもう何も喋らないから、お口チャックするから許して愚民様ぁぁぁ‼」



☆☆☆☆☆



「………話、進まない」

少女が呟いたその言葉によって俺達は正気(否元々失ってはないのだが)を取り戻し、話を戻すことにした。

「………まず先に聞くけど」

そう口を開いたウズメの足はブルブルと震え、顔面を含めた体の一部にはあまり目立ちの無い引っ掻き傷が数個ほどあった。

誰が着けたのかはしらんが放っておこう。

何せあいつが悪いからな。

───────と、そんな状態のウズメが続けて言う。

「あんた、誰なのよ」

人差し指を、とある人物に向けて。

その人物とは、俺ではない。

かと言って、ウズメ自身でもない。

いや、ウズメが自分に誰なのかと問い出したら、流石の俺でも精神科への入院を進めると思うぜ。

─────と、指を指されたのはもう残り一人しかいない。

そう、赤髪の少女であった。

少女は指を指され何か反応をする──────という訳でもなく。

ただただ立ち尽くして、真っ直ぐとウズメの方を見つめていた。

見つめられたウズメは恥ずかしげに下を向き、まるで恋する乙女の如く言った。

「な、何………?」

それを見た少女は、やっと、口を開き。

「お前誰?」

真顔で、表情に何の変化も無くそんなことを言い切った。

それに喰いつかないような温厚で楽で面倒じゃない性格の持ち主ではないウズメは。

「誰がお前よ、ウズメ様と呼びなさい‼ウ・ズ・メ・サ・マ‼」

あちゃー。

ウズメは予想通りに喰いつき、少女の方へまた、拳を構えてズカズカと向かう。

なので。

「おいやぁ!」

俺が正義ロリをまもると言うなの鉄槌で、ウズメの頭に思い切り拳骨を落とした。



☆☆☆☆☆




そこから、少女は名も名乗らず。

ただ、チョコレートを要求してきたのだ。

それも、ただのチョコレートではない。

かの有名な、某人気正義の味方、愛と勇気だけが友達の最高ヒーロ型のチョコレートを。

────と言うことで、俺とウズメは、そのかの有名な、某人気正義の味方、愛と勇気だけが友達の最高ヒーロ型のチョコレートを買いに行くことになったのだが、当の本人である少女は一歩も動こうとしなかったので、二人で行くこととなった。

ウズメは、行くついでに、町案内も兼ねたいとのことであった。

否俺の家からそうそう遠くも無いし、町案内は必要ないと思うけど。

そう言うと、何故かウズメは額に汗を浮かばせて。

「いいから愚民は私の言うこと聞いてれば良いのよ‼」

そう誤魔化すばかりであった。

まあ、もう面倒だったので素直にウズメにしたがっておくことにした。

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