第1話 山崎幸也には運がない⑥

その昔────と言っても千年ほど前のことなのだが─────に、とある神様が居たそうだ。

その神は、まあ言ってみれば人間界に馴染みすぎて神と呼ぶにはどうなんだと言われるほどの、人間で言うところのダメ人間で。

所謂「ダメ神」だったのだという。

そんな神様、色々な事情から家を追われ、衣食住さえまともに揃わなくなってきたそう。

そんな所に、天から降りてきたのはもう一人の神。

その神が言うには、「ダメ神」が元の「神」に戻るためには人間が力を高めるのと同じように、修行を積まなければならない、とのこと。

修行の際には確りと衣食住も揃うと聞いた「ダメ神」は、修行を受けることに決めた。

で、そのまま神は修業のため森に籠り。

一人静かに、大きな木の上で修行を積んで一生を過ごしたんだとか。

───────そこで、ウズメの話す『伝統』は終わる。

そこまで聞いた俺は、思わず心の底からの本音を吐き出してしまった。



「………しょうもねぇ」



そんな俺の一言を、小さな呟きを、この銀髪少女ウズメは聞き逃さなかったらしい。

「何か言ったかしらぁ?そこの下等生物さん」

にんまりとわざとらしいくらいの笑顔の、ゆったりとした口調で、ウズメは言った。

他でもない、俺の方を見つめながら。

………よし。

俺は決心をつけ。

「あぁ、言ったよ、言ったさ‼しょうもねぇなぁって言ってやったさぁ!!!!!!」

満面の笑みを浮かべたウズメに向かって言い切った!

「ちょっ、何いきなりそんな大声だしてんのよ愚民!!!!!!謝れ、この大木に謝れぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

──────と、こんな感じで直ぐにウズメに圧倒されてしまったが。

俺は気を持ち直して。

「─────で?それで、その話が、此処に来た理由と何の関係があるんだよ」

俺は、歯をギリギリと音を立てながら歯軋りをして此方を睨んでくるウズメに向かって、平然とそう問う。

俺の問いにウズメは、呆れたような溜め息を吐き。

「その、さっき言った『伝統』には、まだ少しだけ続きがあってね。さっきの続き────修行をして一生を過ごしたっていう続き。────その後、ダメ神は神に戻ることが出来、街に住む人々は神のことを崇めたのよ。『修業の神様~』ってね。それからこの大木に何か供え物を持ち、願望を三回唱えると叶うって言われ始めたのよ。まぁ、神様からしたら良い迷惑だと思うけどね」

言い終えるとウズメは、再び溜め息を吐いた。

ふふーん。

要は、その『修業の神様』とやらに御祈りに来たわけか。

何の為かは知らんが。

と、俺が納得しているのを見たウズメは。

「じゃ、わかったなら、何かお供え物を差し出しなさい」

言って、俺に向かって両手を差し出してきた。

「いや、ちょっ、何で俺なんだよ。自分で出せば良いだろ?」

俺が言うとウズメは、「はぁ?」と人を見下すような顔になり。

「いや、あんたこそ何、何言っちゃってんですかぁ?」

そう言い切った。

─────あんたこそって、何なんだよ、一体……。

と、俺とウズメが言い合っている中。



「うる………さい………………誰か…………いる………?」



小さい声。

けれど高く、透き通るような声。

そんな声が、聞こえ。

木の上から、少女が飛び降りてきた。

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