空、涙、望遠鏡

木陰

第1話

この時期の空はまるで灰色の絵の具でも塗りたくったかのように厚く重い色をしていた。

巷で有名なおんぼろ屋敷二階、畳の上に不釣り合いな望遠鏡は埃1つ被っておらずに置かれたばかりと疑いたくなるくらいに傷ひとつなかった。


『あの幽霊屋敷でるんだって』

幽霊屋敷というくらいだから何かしらでるのだろうけど私が興味を引かれたのは望遠鏡の話。

『望遠鏡を覗くと死神がでてくるって』

『え、私が聞いたのは未来が見える話だけど』

なんとも曖昧で噂が噂として固定されていないのが興味深かった。

同じように考えて覗きに来た人が何人もいたのだろう、この新品具合を見ればその噂がデマだったことは容易に知れた。

「くだらない」

といいつつもここまで来たのだからと望遠鏡の除き穴に目を当てると

「ピンぼけしてなんにもみえないじゃない」

太陽をみたら目が潰れるけれど今は幸い半月

ピントを合わせると月の輪郭がよくみえた。

そして私の意識はそこでぶつりとキレた。


「おはよう」

「おはよう、昨日幽霊屋敷いってきたんだって?」

「ええ、特に変わったことはなかったわよ」

「やっぱりデマなんだー幽霊屋敷の死神の話」

友人は少し残念そうに唇を尖らせるとすぐに表情をかえて途端に笑顔になる。

「でもさでもさなぁんかあったでしょ?雰囲気変わったもん」

「そう? それと私が知っている幽霊屋敷の話は死神じゃないわよ」

「ん?」

「望遠鏡を覗いたら入れ替わる話、よ」

「…… ちょっと」

「なんてね」

やめてよ、とかなんとかキャーキャー笑い合ういつもの日常。過去のやりとりも思いでもわかるから私は私としていられるの。

『望遠鏡を覗いたら全てが奪われる』

本当の私はあのなかに涙をながしながら眠ってる。

綺麗な望遠鏡を保つための糧になり、命つきるそのときまで

「おやすみなさい」

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空、涙、望遠鏡 木陰 @irohani

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