4 装備を確認しましょう

 自分という人間に完全に嫌気がさしてしまった僕はその日、夜まで外に出ることはなかった。

 すべてがどうでも良くなった。ある意味、これは僕という人間のあるべき姿なのかもしれない。ダメ人間というレッテルが貼られるような人間はもはや立ち直れないからダメ人間なのだ、きっと。

 そういうわけで、連絡を取る相手もいないのにもかかわらず、なぜか持っているケータイをいじったり、部屋の隅でほこりをかぶって眠りについていたFコードで挫折した生音のショボい安物のエレキギターを適当に弾いてみたりして、昼から夜になるまでを過ごした。

 モテたくて買ったうまく弾けない安エレキギターでかろうじて覚えていた適当なコードをじゃらんと弾いたら、さびていた弦で左手の指が痛くなった。

 この痛みを感じなくなったら、もう僕はダメ人間という「人間」ではない「何か」になるんだろうか、と思った。妙に感傷的な気分になっていた。

 死ぬ間際みたいな感覚だった。ふと、自分に対しての後悔がぐるぐると頭蓋骨の中を駆け巡っているような感覚になる。

 モテたかった。かっこよくありたかった。

 無理だった。ダメだった。

 ダメ人間じゃなくなったらモテるのだろうか。いや、モテないからダメ人間なのだろうか。卵が先か鶏が先かといった問題に似た問題にぶち当たった僕は考えるのをやめた。

 結局、考えたところでこの状況が変わるわけでもない。ただ、自分の状況を把握して、深い悲しみと後悔にもう一度苛まれるだけだと、そう思った。

 安ギターで遊ぶのをやめて、時計を確認するともう夜と呼べる時間だった。カーテンで締め切られた部屋の状況が目に入る。自分の生活に意味を見いだせなくなってから、次第に考えることもなくなっていたこの環境。この部屋で暮らし始めたあの頃はこんなことにはなっていなかったということだけは思い出せた。

 床に転がる青年誌(袋とじ開封済み)と大人気少年誌。使用済みのティッシュが大量に詰められたゴミ箱。台所にうずたかく積まれた食べ終わった後の食器と飲料を飲み終えた後の空き缶とペットボトル。敷きっぱなしのダニが湧いていそうな不衛生な布団。ふと目に入った僕にとっては当たり前であるそれらすべてが僕のどうしようもないクソみたいな生活のすべてを表していた。

 クソだ。ゴミだ。僕が生み出しているこの生活には何の価値もない。僕にも何の価値もないことぐらいはわきまえている。僕にはもうどうすることもできない。現実に敗者復活戦なんて都合のいいものは存在していない。

 そういえば、さっき久しぶりにケータイを開き、大学入学してからはやめてしまったSNSを見て、友人の近況を見たりしたけど、アレはひどいものだったな。

 露骨な現実が充実しているよアピール。

 楽しいよ。

 嬉しいよ。

 そんな思いが写真や写真について書かれた言葉の片々から語りかけてくるようだった。誰に向けてやっているんだろうか。知り合いか? それとも見知らぬ誰かに向けてだろうか。

 知らねえよ。そんなの知ったことか。お前の知り合いがそんなことを知ったところでどうなるっていうんだ。

 友人の近況についての投稿に対して、コメントがいくつかついていて、それらを読んだ後、僕はどうしようもないモヤモヤとした名前のつけようがない気持ちをため込んだことを思い出した。

 以下コメント引用。

「わ〜、すごいね〜、あたしもいきたい〜」「あたしも〜」「あたしもそうなりたい〜」

 コメントをつけた奴の心中はこうだと(独断と偏見によって)推測する。

「むかつく」「何自慢してんの?」「正直、お前の投稿って自慢ばっかりでイライラしてるんだけど」

 結局、充実を公表すると羨望のまなざしが一瞬だけやってきて、その後すぐにそのまなざしは嫉妬に変わる。たぶんみんなそうだ。

 わかるだろう?

 わからないか。

 わからないよな。

 羨望。

 嫉妬。

 僕の頭の中に広がるそれらは結局僕の卑しさ、浅ましさを表していると気がつき、僕は自分の存在というものが何なのかがわかった気がした。

 気がしただけ。

 ただそれだけ。

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白と灰 ヱア @0111

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