妻の姿、食卓の風景に衣裳の手触りまで、物凄く繊細に書かれていて、まるで実在する誰かの人生の幕間をちょっとだけのぞいているような、不思議な心地になりながら読み終えました。
短いのに、重厚。ドレスを脱ぎ、髪を切る。たったひとつの場面に「人生の機微」が凝縮されている様子はまさに圧巻の一言です。続きがみたいような、ここからさきは見てはいけないような。読み終えてから、想像だけがぐるりぐるりと廻っています。その余韻が心地よいのです。
鳥は飛んでいく。
そのみちゆきが苦難に満ちていても、鳥は決して振りかえらないのでしょう。ならば、せめて苦難の数だけ、幸福が訪れんことを。彼女の人生が、これからもずっと、愛に報われたものであることを願います。