良いホスト、来たる

「ねえ。」


 ぶっきらぼうに後ろから声をかけられ、いらっしゃいませと応えつつ振り向くと、シャツまで黒い、全身をスーツで決めた茶髪の30代男性が立っている。この時私の心はもの凄い勢いでガッツポーズを取っている。


(20代のホストじゃない!!これは大口注文かつやりやすいお客だ!!)


「これと、このグラス。何個ある?」


 個数を指定しない・・・この人は買い物慣れしている神様だ・・・。少々お待ち下さいませーっと言い終わらないうちに倉庫へ駆けだした。


 30代のスーツをビシッと着こなすホストのお客様は、なぜ神様なのか?その理由は大きく2つ。


   1,自分が何を買うべきか解っている。

   2,大量購入してださる。


 2はともかく、1番の項目に呆れた方はいるだろうか?ホストの方に限らず、自分が何がほしいのか、どんな商品が必要なのかを自覚して買い物にくるお客様は、声がけして下さる方々の中では珍しいのだ。


「俺の店のグラスってコレですかね?」


 20代のホストの方によく聞かれた質問である。

 答えはもちろん


「申し訳ございません、こちらでは解りかねます。」


 これしかない。ここから店に連絡して、とりあえずこのグラスを30個取り置いておいて、写真を送ってもらうからちょっと待って・・・。


 待ちます、待ちますとも。

 だけどこうなってしまうと、お使い若手ホスト様は自信がないので1箱くらいしか結局買わないのである。そしてやっぱり違ったから返品に来たりするのである。二度手間で申し訳ないから、歌舞伎町の各ホストクラブのグラスリストを作成しようかと何度思ったことか。


 しかし、こうやってグラスを指定してくる30代のホスト様はとにかくスピーディーだ。


「お待たせいたしました!コチラのグラスが50点、もう一点が120点在庫ございました!」


 そう言いつつグラスをどちらも30点づつ台車に積んで持ってくる。


「ん~じゃあこっちは30個で、これは50個ちょうだい。」


 かしこまりましたああああああ!

 心の内で絶叫しつつ普通に返事をして倉庫と店舗をもう1往復だ。


 しめて8000円プラス税。

 接客に掛かった時間、5分。


 また来て下さい・・・本気で願いつつ大きな声で


「ありがとうございました!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目指せ歌舞伎町脱出!~アラサー女の転職への道~ にじゅうなんさい @mori-fmk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ