冤罪の勇者
クロマヨ
プロローグ
――正義は時に、白を黒と決めつける……
思い返せば俺の人生、冤罪だらけだった。
俺が罪に愛され始めたのは、小学一年生からだった。
昔通っていた小学校は、お世辞にも新しいとは言えない、オンボロ学校だった。
ATMも無いド田舎だったため、生徒の人数も全学年合わせて十数人といったところだ……いや、これでもまだ多いほうなのかもしれない。
ある日、そんなオンボロ学校の教室の扉を開くと、ボロボロの教室で唯一の華であった花瓶が割れていた。
もちろん割ったのは俺ではない、俺よりも先に教室に来ていた誰かだ。
だが、俺がどうしようか悩んでいたところ、運悪く先生が来てしまった。
先生は犯人が俺だと勝手に決めつけ、俺はこっぴどく叱られた後に片づけまでさせられた。
次の冤罪は小学五年生の時だ。
先ほども言った通りこのド田舎にはATMすらなかったため、給食費などは親が生徒に持たせていた。
六年生がいなく、同級生もいない俺は、その時の最高学年であった、最高学年の俺は、皆の給食費を集めてくるように言われた。
俺は言われた通り手際よく給食費を集め、先生に渡した。
だが次の日、突然先生がこんなことを言った。
「非常に言いにくいことなのですが……このクラスの誰かが、給食費を盗み出しました」
「全く、不用心な先生だ」と俺は思った。
生徒に盗み出されてしまうほど簡単なところに給食費を置いておくなんて。
だが、先生が次に言った言葉は信じられないものだった。
「何か心当たりはありませんか? 瑞希ミズキくん」
「……え?」
何を言っているんだこの先生は、俺は確かにあの時、給食費を手渡したはずだ。
「瑞希くん、昨日ひとりで、夜遅くに学校へ来ていたでしょ?」
「え……あ……はい……」
確かにその日の前日、俺は学校に来ていた、カバンに入れたと思っていたはずの家の鍵を探し、学校まで取りに行っていたのだ。
「でも、僕は給食費なんて……」
この時の俺は確か、まだ自分の事を僕と言っていた。
「泥棒はダメだよ瑞希くん、今はまだ大丈夫かもしれないけど、大人になってこれと同じことをしたら警察に捕まっちゃうからね?」
反論しようとする俺に向かって、先生は容赦なく言葉をぶつけてきた。
まだ小心者だった俺は、結局何も言い返せず、親に全額を賠償させてしまった。
もちろんその後、親にこっぴどく叱られた。
因みに、この時給食費を盗んだのが誰だったのか、それは俺が中学生になったときに分かった。
この騒動の犯人はなんと先生だった。
ド田舎の学校は儲からないらしく、お金に困っていたんだとか、そこで給食費に目をつけ、まだ小さい子供を利用して給食費を盗んだのだ。
あの時カバンの中に鍵が入っていなかったのは、俺がトイレに行っている最中に先生が抜き取ったかららしい。
その後先生は牢屋に入り、教員免許も剥奪されたらしい。
子供を利用してお金を盗んだのだ、当然の報いである。
というよりか「こんなことが起こるくらいならATMを置いてくれよ市長さん」と俺は思った。
次に冤罪を掛けられたのは、俺が高校生になった時だった。
そのころにはもうド田舎から引っ越しており、普通の高校で普通の暮らしを送っていた。
中学時代は特に何事もなく平和に暮らしていたのだが、高校二年生の時に、事件は起こった。
その日、俺たちは修学旅行に行くための手荷物検査を受けていたのだが、別室で女子の手荷物検査をしていた先生が俺たちのいた教室に入ってきて、何やらコソコソと話している。
耳を澄ませて聞いてみると、どうやら、とある女子の下着が盗まれたらしい。
そのとある女子は俺と同じクラスで、学年のマドンナ的な存在であった。
因みに、俺の初恋の相手でもある。
「俺の初恋に手を出しやがって……」と思っていたのだが、なぜだか真っ先に疑われたのは俺だった。
その日は体育の授業があり、荷物を置いてあった教室に誰もいない時間帯があった。
そんな時、急にお腹を壊した俺は、先生に言って保健室へと向かった。
だが、保健室にたどり着く前に限界がきて、近くのトイレへ駆け込んだ。
数分間に渉る下痢との戦闘を終えると、腹痛はすっかり収まっていた。
そのため、俺は保健室に向かわずに皆の所へと戻っていった。
それがいけなかった……俺はやっていないと言っても、俺にはアリバイがなかった。
保健室に行くと言ってみんなの所を離れ、数分後、保健室に入らずにに戻ってきた、保健室の先生も俺を見ていないという。
間違いなく怪しい……
自分でもそう思ってしまうほどに俺の行動は怪しかった。
結局、犯人は学校に不法に侵入してきた輩で、俺の冤罪は晴れた。
しかし、クラスのみんなからは自然と避けられるようになってしまった。
こんな状況では、初恋も叶うはずがない。
その後も俺は、罪に愛され続けてしまった。
十九歳、何とか大学に入った俺は何故かバイト先のコンビニで万引きを疑われる。
二十歳、そのバイトを辞めた俺は次に喫茶店でバイトを始める、そこでは髪の毛が入っていたと女性客に怒鳴られる。(俺の髪の毛より長いし明らかに客のものだ)
二十一歳、女子大生の盗撮を疑われる(俺はパ〇ドラで遊んでただけだ!!)
そして二十二歳、無事大学を卒業してサラリーマンになった俺は、入社二ヶ月で痴漢の冤罪を掛けられる。
俺はすぐさま警察署へと連れていかれた。
コツコツとお金を貯めていたおかげで、すぐに出ることはできたが、お金を払うということは罪を認めるということ、よって俺は会社をクビになる。
そんな不幸な人生を送り、会社をクビになった次の日、俺は交通事故で死んだ。
まったくもっていい人生ではなく、生きてても死んでても変わらないというような状況だった。
でも、いざ死ぬとなると、やはり怖いものだ。
俺の死に方は、居眠り運転をしていた大型トラックにひかれるというこれまた不幸な死に方だった。
一瞬の痛みの後、俺の意識はすぐになくなった。
走馬灯なんてものを見る暇もないほど、一瞬だった。
じゃあなぜ、俺は今こんな事を考えているのか、それは……
「おぉ、よく来てくれた……異界の勇者殿よ……」
「……はい?」
――俺が、見たこともない、謎の部屋に立っていたからだ。
冤罪の勇者 クロマヨ @kuromayo
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