漫才 野球

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

漫才師A「二〇二〇年の東京オリンピックで野球が復活するらしいですね」

漫才師B「嬉しいことですよ」

漫才師A「今はプロが中心になってチームを作ってるけど、昔は、社会人が中心になってやってましたよね」

漫才師B「古田とか野茂とかが出て、やってたね」

漫才師A「僕も社会人野球の経験者なんですけど」

漫才師B「お前のは『草野球』って言うんだよ。なに、本格的な感じにしてるんだ」

漫才師A「ドラフトの当日になると興奮して夜しか眠れなくなっちゃうんですよ」

漫才師B「普通だよ、それは。それに、何でお前がドラフトにかかるんだよ」

漫才師A「昔は、下位指名だと、スカウトが本人に承諾をとらないまま指名する、なんてことがあったみたいですからね」

漫才師B「元阪急の福本豊さんが松下電器に所属してる時、新聞に自分の名前が載ってるのを同僚に教えてもらって、そこで初めて自分が指名されたことを知った、なんて伝説がありるからね」

漫才師A「僕もドラフトの時はいつも新聞チェックして、自分の名前がないか確認してますよ」

漫才師B「お前の名前が新聞に載るか。犯罪した時ぐらいだろ、お前の名前が載るとしたら」

漫才師A「まあ、これも今じゃほとんどなくなりましたけど、九〇年代前半ぐらいまでは、結構指名拒否なんてのがあってね」

漫才師B「ああ、人気のない球団はよく拒否されてたね」

漫才師A「ロッテとか日本ハムとか近鉄とかね」

漫才師B「はっきり言うね。まあ、そうだけど」

漫才師A「日本ハムなんてすごいんですよ、七六年のドラフト会議で六人指名して四人が入団拒否ですから」

漫才師B「それはすごいね、二人しか入団しなかったんだ」

漫才師A「一位、二位、三位が全員拒否。しかも入団してくれた六位の選手なんか一度も一軍に上がれないまま首になりましたから」

漫才師B「今じゃ考えられないよな。最近の選手は『十二球団OKです』って明言する子ばっかりだから」

漫才師A「実は、僕も十二球団OKですよ」

漫才師B「独立リーグにも欲しくないよ、お前なんか」

漫才師A「でもね、亜細亜大学の小池秀郎は、九〇年のドラフトで八球団から指名されたんですけど、くじ引きでロッテが交渉権を獲得したら、その瞬間、会場がどドッカンドッカン笑いの渦に包まれて。もう罰ゲームみたいな感覚ですよ」

漫才師B「小池の顔は完全に引きつってたな。当時監督だった金ヤンだけが万歳しながら喜んでた。結局、小池はロッテにはいかなかったけど」

漫才師A「その頃のパ・リーグってのはそれくらい不人気だったわけですけど、逆に言うと注目されてないからこそ、個性的な選手が生まれるというかね」

漫才師B「今は変なことしたらすぐに突っ込まれますからね。選手も委縮しちゃうんでしょうね」

漫才師A「昔のパ・リーグってのは突っ込みがいない、ひたすらボケてる状況だったわけで。今日ここにいる皆様方と同じです」

漫才師B「失礼だろ。なんてこと言うんだよ。まあ、その頃の話は、最近だと元近鉄の金村さんとかが、よく話してますよね。ルックスからすごかったという」

漫才師A「ああ、金のロレックス、金のネックレス、パンチパーマが、三点セットだったというやつね。後はセカンドバックにベンツ。ヤクザと見分けがつかないですからね。セ・リーグですけど、『仁義なき戦い』は広島カープをモデルにしてると言われてますから」

漫才師B「そんなわけないだろ! まあ、八〇年代の後半に入ると、新人類なんつって、西武の工藤、渡辺、清原、それから近鉄の阿波野、日ハムの西崎なんかがトレンディ・エースとか呼ばれて、雰囲気が徐々に変わってきましたね。後はJリーグが誕生したのもでかいね」

漫才師A「だから、元々はパンチパーマ側だった野球選手の中にも、おしゃれになろうと頑張る人が出てくるんですよね。ダサい人が無理におしゃれになろうとすると、だいたい悲劇か喜劇になっちゃいますね」

漫才師B「いきなりおしゃれになるのは無理ですよ。向き不向きもあるし」

漫才師A「元日ハムの片岡選手は、カフェの下見に行ったらしいですよ。初見で入るのが怖かったから。あと、ワイングラスを回して空気を入れるなんて飲み方があるじゃないですか、あれをやろうとして、全部零したっていう」

漫才師B「慣れないことをすると失敗するね」

漫才師A「本当ですよ。川相にホームラン打てっていうのと同じですから」

漫才師B「バントの世界記録作った人ね。地味だけど立派な仕事ですよ」

漫才師A「小さなことからコツコツと」

漫才師B「それは西川きよしだけどな」

漫才師A「今は、外国人選手も大人しくなりましたね」

漫才師B「噂によると、成績だけじゃなくて、性格まで調べてから獲得してるらしいよ」

漫才師A「昔はテレビで、外国人バッターが日本人ピッチャーに突進していく映像がよく流れてて」

漫才師B「宮下対クロマティとか、デービス対東尾とか。緊張感があったね」

漫才師A「でも、あれはやっぱり危ないですよ」

漫才師B「怪我しますからね。阪神のバッキーは巨人の荒川コーチを殴って骨折しましたから」

漫才師A「いや、僕はボクシングみたいに階級制にしたほうがいいと思うんですよ。今の状況だと八十キロと百キロが殴り合うなんてことになるでしょ? だから、ピッチャー八十キロ級とか、バッター百キロ級とかにしないと不公平ですよ」

漫才師B「なんで乱闘の制度を整えようとしてるんだよ」

漫才師A「清原事件で一躍脚光を浴びた野村が、格闘家デビューするぐらいですから、野球もやっぱり殴り合いで勝負を決めた方がいいんじゃないですか? そっちの方がわかりやすいですよ。九回までに勝敗がつかなかったら、監督同士が戦うとか。金本監督と工藤監督の交流戦」

漫才師B「なんだよ、それ。でも、まあ乱闘が少なくなってきているのはちょっと淋しくもありますけどね」

漫才師A「そういえば客がグラウンドに乱入することもなくなりましたね」

漫才師B「最近はドーム球場が増えたからね。外野のフェンスも高くなったし」

漫才師A「試合中、広島市民球場に、『巨人軍は永久に不潔です』って垂れ幕掲げた奴がいたりして」

漫才師B「いたね、そんな奴」

漫才師A「あれも商売にしたらいいんですよ。掲示板みたいに、『渋谷に十二時集合』とか『お父さん帰りにアイス買って来て』って垂れ幕をバックネット提げたりして」

漫才師B「プライベートなメッセージを発信するのに大げさすぎるだろ。メールでやれメールで」

漫才師A「巨人の入団テストが始まる時間が迫っているので、僕はこのへんで」

漫才師B「まだ諦めてなかったのかよ」

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