そして未来へ

第29話 書籍化あれこれー連載からの落とし穴

 お陰様で月刊誌の連載も、そして年明けに突然舞い込んできた業界日刊紙の連載も無事に終了し、いまは書籍化の作業に明け暮れています。

 このエッセイの最後は、連載を元にした書籍化に関するあれこれをお伝えし、今後カクヨムで書籍化を目指す書き手の皆さんに役立てていただけたらと思います。


 連載であれだけ文章を練り上げて、書くことには慣れたはず、と思っていましたが、やはり世の中そんなに甘くないのです。いろんな落とし穴が待っていました。


 まず最初の躓きは、連載の記事を元に書籍構成を考え、原稿を書き始めた時に起きました。

 書籍の構成案は、編集者がメイン作業を行い叩き台を送ってくれました。「そんなことまでやってくれちゃうんだ~こんなに楽チンでいいのかしら~」と感動したのも束の間、待っていたのは「まずい、そんなはずじゃなかった」という嘆き節でした。

 

 原因は、「連載の記事が基調にあるから、書籍化ではそれに追加するつもりで好きなだけ長々と文章を書いて増やせばいい」と思い込んでいたことです。

 書籍化にもいろいろあると思いますが、私の場合は簡単に言えば、基調となる連載の字数を3~4倍程度に膨らませる字数で設定されました。その場合、連載の記事は非常に短く、限られた字数の中に言いたいことを収める、という作業の連続だったのに対して、書籍は最低でもその3倍になるため文章を縮める必要はありませんでした。それは、できるだけ長く書く、つまり「書きたいだけ書ける」という私にとっては最も理想的な形で、「これまで我慢して削ってきたところも全部書けるぞ~」と、ウキウキしてたくらいです。


 ところが、実際は全く違いました。

 確かに、字数のことだけで考えれば、元になる原稿を3~4倍の字数を増やせばよいだけですが、そんな簡単なことではなかったのです。無理矢理にも短い文章に収めるために使った表現が、緩やかに表現できる書籍での文章に相応しいはずがない、明らかにおかしいことになるのです。

 もちろん、書籍の文章が緩やかだからといって、間延びするとか、だらだら書くとか、なんて御法度です。

 けれども、例えば、連載では主張だけで終わっていたところが、書籍ではしっかりと事例も挙げながら解説できるのに、主張だけでバチッと切っていた文章をそのままおいたら、おかしくなって当然ですよね。

 そのため、書籍の構成として配置されたそれぞれの項目で、書くべきことは決まっていても、連載で使った原稿から該当するところを抜き出して嵌めていくだけでは完成しません。というより、実はほぼ書き直しが必要になったのです。それはある程度は覚悟していましたが、まさかここまでとは、と青くなったのは、年が明け、春の訪れを感じる頃でした。そしてこの作業は未だに続いています。ため息~。


 次なる躓きは、構成上は異なるのに、似たような表現の文章があちこちに散見し、頭の中がぐるぐる渦巻きになって、筆が止まってしまうことでした。

 例えば、第1章と第2章はそれぞれ書籍の中での役割が異なり、第1章では全体に共通する内容をメインに、第2章ではそれらを詳細に解説し事例なども含める、と決めてあるのにも関わらず、トピックによっては第1章と第2章で重複する表現が多発し、収集がつかなくなってしまったのです。

 

 この点は、小説などでは問題ないのかもしれません。時系列で物語が展開したり、登場人物の関係性を軸に展開する場合は、それぞれの章の役割は明白ですから混乱は避けられるでしょう。また、書きながら第1章と第2章を行ったり来たりという作業も、小説では伏線の回収など以外ではそれほど頻発しないでしょう。


 しかし、私の書籍化の場合は、一応の時系列はあっても、それを第1章と第2章でどう書き分けて、どのように提示したら読者に分かりやすいか、について、連載の時とは全く異なる視点から俯瞰して、練り直す必要が生じました。

 そのことを、書籍化に取り掛かって実際に文章を書き始めるまで、全く気づいていませんでした。甘かった~。


 連載の時も、文章の推敲には人一倍の時間と労力を掛けてきた自負はありました。けれども、だからといって完成品のクオリティーが高くなければ、何の意味もない、それがプロの世界です。早くて上手い、が当然なのです。そう考えると、私なんぞはまだまだ、多大なエネルギーを突っ込んで必死になって、やっとプロの一歩手前くらいにたどり着いただけなのか、と思い知らされたのでした。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る