第3話 なぜ私? ほんとに私で大丈夫?
その編集者さんとは初コンタクトでしたが、電話口での最初の丁寧な挨拶のやり取りからお人柄が窺われ、私は率直にお話してみることにしました。
執筆候補に私の名を上げて頂けたこと、こうしてご依頼の連絡を頂くことは大変有り難く光栄なことだけれども、なぜ私なのか? 私で本当に大丈夫なのか?
と。
これは単に、謙虚さだけからではありません。
これまでの数少ない経験からも、なぜ自分に依頼が来たのかを明確にしなければ良い結果にはつながらないと実感しているからです。
既に正式な依頼状を送ってきているのだから、そうした質問にノーと応えることはないだろうとは思いましたが、それでも確認せずにはいられません。
なぜ私なのか。
そして私に何を期待して、書かせたいと思ってくれたのか。
私が長く在籍する業界の中でも、年長者の幹部以上のクラスが愛読書としているこの月刊誌に、諸先輩方を差し置いて、私ごときが書いて本当に大丈夫なのか?
この後に、学会とかに顔出した時に、マズイことにならないか?
と要らぬ心配まで過ります。
すると、若い編集者さんは、一つ一つ丁寧にお話してくれました。
そして、お話する内に、確かに編集部の意図する内容を連載するとしたら、私の経歴や、どこかに書いた文章などが目に留まっても不思議はないと感じました。
今までにない企画、という点では、どちらかといえば業界で決して主流派ではない私の方が書きやすい内容ですし、読者の役に立つ具体的な情報やアイデアを盛り込みたいとなれば、日頃、象牙の塔に籠らずに在野を直走っている私の得意分野です。
それでも、本当に大丈夫か?と自分への疑問符は消えません。
月刊誌の年間連載は初めてです。
途中でネタが尽きて編集部を困らせたりすることにはならないだろうか?
と不安は募ります。
それを率直にお伝えすると、
そのためにも編集者が居るのだから、それも含めてこれからじっくりご相談させて欲しい、ご一緒にやっていきたい、と言ってくれたのです。
なんと、ありがたいことでしょう。
電話先の息遣いからも、それが社交辞令でないことは明白でした。
そこで私は、1週間以内に年間連載のプロットを作成して送るので、それを見て最終的な依頼を判断して欲しいと頼みました。
先方はもちろん快諾してくれましたが、それによって依頼を断るつもりはなく、最初のステップと受け取ってくれたようでした。
そして、電話を切った後に、お願いしていた編集部内の資料をメール添付で送ってもらい、開封したのですが、
またまた驚きました。
編集部内での原稿ご依頼の意図をより的確に把握したかったので
「来年度の連載候補 提案内容概要」の私の部分の抜粋をお願いしていたのですが、その日付の欄は10月初旬でした。
つまり、私が「来年度の仕事はどうしようかな~」と仕事場のカレンダーをぼうっと眺めていたころ、既に編集部ではここまで具体的なお話が進んでいたのです。
不思議なご縁と、私を見つけてくれた感謝に胸が一杯になって、
早速作業に取り掛かりました。
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